最終年度は、歯科用マネキンを用いて試作歯科治療ロボットの動作確認と評価を行った。カッターパス(工具の運行軌跡プログラム)を生成するためには、対象歯の形状データが不可欠である。歯肉縁下など直視不可能な部位の形状測定は、非接触式(光学式)では難しいため、接触式によらざるを得ない。しかし、接触式は、測定時間が長いという問題がある。そこで、本研究では、工具の通過が想定される部位の付近についてのみ測定し、測定点間については補間することで測定時間を抑えることを試みた。また、当初生成した隣接面用のカッターパスでは、形成面に段がついてしまった。これは、辺縁歯肉を傷つけないよう工具を工具軸方向に移動させる際に工具のテーパーを考慮していなかったためで、形成面に沿って移動させることで解決した。 本研究では、研究期間全体を通じて、フルデジタル化の鍵となる形成の自動化について有効性の検討と問題点の把握並びに解決策の検討を行った。その結果、歯科治療ロボットの使用は形成精度の向上に効果があると思われたが、解決すべき問題点も明らかになった。試作機では、装置の支持に自在アームを用い、歯列に対する装置の位置決めに印象材と印象用トレーを用いた。しかし、この方法は、臨床での使用を想定した場合、トレーに対する装置の着脱操作が煩雑であること、患者が動いたときの装置の追従性が悪いこと、対象歯から離れた位置に装置があるため患者が動いたときに「てこの原理」で大きな力が発生し、トレーがずれたり外れたりする可能性があることなどが分かった。本研究の成果として、これらの問題を解決するためには、歯科治療ロボットの機能を口腔内外で分離すればよいとの着想に至り、その実現に必要な口腔内切削装置と動力伝達装置を考案し、特許を出願した。また、本研究の派生成果として、ハンドピースによる形成の支援システムも考案し、特許を出願した。
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