平成27年度には歯磨によるぬれ性の向上と加熱処理によるぬれ性の向上は同じであると着想を得て、加熱処理の温度や時間および保管環境について検討を加えた。その結果、400℃以上10分間加熱で超親水性を得た。平成28年度には700℃加熱試料にL929細胞とMC3T3-E1細胞の培養実験を行ったところ、細胞増殖に優れ、加熱処理により増殖に有利な環境が形成された。 平成29年度には加熱および歯磨試料表面の親水性および親油性を評価した。さらにXPS分析により、構成元素の化学結合状態を検討した。その結果、加熱試料は超親水性を示すが、オレイン酸へのなじみは少なく親油性ではなかった。加熱により表面に吸着したC量が減少し、親油性ではなくなったことによると考えた。加熱試料においてZr、Y、Oの化学シフトが生じており、これらの元素の結合エネルギーが小さくなることから、酸素欠損や価数変化などのジルコニア自体の変化が生じていた。歯磨試料では蒸留水とオレイン酸と接触角がほぼ同じだった。C量は研磨試料より少なく、加熱試料よりは多かった。また化学シフトは認められなかった。 すなわち、歯磨には加熱と同様にジルコニア表面に吸着したカーボンを除去する働きがあり、このため親水性を獲得する。口腔内に装着されたジルコニア修復物表面の汚れが報告されており、歯磨試料が親水性および親油性のぬれ性を示すことから、口腔内の色素やタンパク吸着に歯磨が関与していると推察できる。 上記に関連して、未焼結ジルコニアの強さを評価するための現行JISに則った石こうの強さ測定、ジルコニア焼結体のシャルピー衝撃強さ、ジルコニア用研磨材の熱分析などを発表した。
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