研究課題/領域番号 |
15K11215
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
岩田 倫幸 広島大学, 病院(歯), 助教 (30418793)
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研究分担者 |
水野 智仁 広島大学, 病院(歯), 講師 (60325181)
兼田 英里 広島大学, 病院(歯), 歯科診療医 (30736426) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 再生歯学 / 歯周組織再生治療 / micro RNA / 間葉系幹細胞 |
研究実績の概要 |
歯周組織再生において、MSCと歯周組織構成細胞の細胞機能制御および移植前後の歯周組織恒常性維持は、歯周組織再生療法の成否に重要な因子であることが示唆されている。平成28年度における本研究では、歯周靭帯細胞(HPL cells)を含む歯周組織構成細胞およびMSCが特徴的に発現しているmicro RNAのうち、細胞機能制御および恒常性維持に関わるものに焦点を当て、歯周組織構成細胞への分化に重要なmicro RNAを明らかにすることを目的として、サイトカインなどの細胞機能に影響を及ぼす因子によって特徴的micro RNAの発現を調整することで、MSCの未分化状態維持および分化の方向付けを制御し、最適な細胞機能の制御方法を確立するという観点から研究を推進した。 平成28年度に行なった研究の具体的な内容として、 1.Micro RNA発現調整に有効な因子の検討:Micro RNA発現調整因子として歯周組織再生療法に応用されている種々のサイトカインに着目し、PDGF-AA, TGF-β1,TGF-β3,IGF-1およびNogginによる刺激時において特徴的に変化するmicro RNAを検出した。 2.細胞分化および機能維持に重要なmicro RNAの同定:平成27年度において歯周組織構成細胞およびMSCにおける特徴的なMicro RNAが同定されたので、それぞれの細胞に対してmicro RNA導入によってmicro RNAの発現調整を行ない、必要な細胞機能を評価した。Osteoblast, HPL cellsおよびCementoblastsへの分化に対する検討を行ない、MSCにおける未分化状態維持に関する検討も行なった。 3.Micro RNA発現調整細胞の未分化維持および分化の方向付けの検討:種々の刺激因子によってmicro RNA発現を調整したMSCに対し、プロファイリングで同定したmicro RNA群に対する分化の方向付けおよび未分化状態維持への影響を検討した。なお、分化の方向付けに関しては、MSC移植により再生が望まれる骨・セメント質および歯周靭帯の均整が保たれることに焦点を当てて検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度における研究により、 1.Micro RNA発現調整に有効な因子の検討:Micro RNA発現調整因子として歯周組織再生療法に用いられるサイトカイン刺激により特徴的に変化するmicro RNAを検出した。特徴的変化を示したmicro RNAは、①PDGF-AA: 増加14種類、減少4種類,②TGF-β1: 増加24種類、減少1種類,③TGF-β3: 増加17種類、減少3種類,④IGF-1: 増加22種類、減少11種類,⑤Noggin: 増加1種類、減少9種類であった。 2.細胞分化および機能維持に重要なmicro RNAの同定:平成27年度に同定された歯周組織構成細胞およびMSCにおける特徴的なmicro RNAのうち、miR-210およびmiR-628に着目し、MSCに対してそれぞれの発現調整を行ない、細胞分化および細胞機能に対する影響を評価した。Osteoblastへの分化に対しては共に抑制的に働いたが、ヒト歯周靭帯細胞(HPL cells)およびCementoblastsへの分化に対しては、miR-210が抑制的に働くのに対しmiR-628は促進的に働いた。MSC未分化状態維持に関しては、miR-210は多くの未分化マーカー発現を抑制した一方、miR-628はETV1およびKLF12の発現は促進させたが、SOX11発現は抑制した。 3.Micro RNA発現調整細胞の未分化維持および分化の方向付けの検討:種々の刺激因子のうち、FGF2およびBDNFによってmicro RNA発現を調整したMSCに対し、分化の方向付けおよび未分化状態維持への影響を検討した。FGF2刺激によって、Osteoblast, HPL cellsおよびCementoblastsへの分化の方向付けが促進され、MSC未分化マーカーGATA6の発現も促進された。また、BDNF刺激によって、同様に歯周組織構成細胞の均整が保たれた分化の方向付けおよびMSC未分化状態維持が促進されたが、FGF2と比較すると、Cementoblastsへの分化の方向付けが早期に促進される傾向を示した。 これらの結果は、交付申請時の平成28年度研究実施計画をほぼ満たしているため、現在までの達成度は順調であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
1.Micro RNA発現調整細胞の未分化維持および分化の方向付けの検討:種々の刺激因子によってmicro RNA発現を調整したMSCに対し、micro RNAプロファイリングで同定したmicro RNA群に対する分化の方向付けおよび未分化状態維持への影響を検討する。基本的には、平成28年度までに検討している刺激因子以外の因子に焦点を絞り研究を推進する。なお、分化の方向付けに関しては、MSC移植により再生が望まれる骨・セメント質および歯周靭帯の均整が保たれることに焦点を当てる。同定されたmicroRNAの遺伝子導入を行なうことによってmicro RNAの発現調整を行ない、MSCにおける細胞機能の評価を行なう。Osteoblast, HPL cellsおよびCementoblastsへの分化に対する検討を行ない、MSCにおける未分化状態維持に関する検討も行なう。
2.Micro RNA発現プロファイルの分類:MSCのmicro RNA発現プロファイルおよび発現調整因子によるmicro RNA発現パターンの変化を分析し、カテゴリー分類を行なうことによって発現プロファイルとMSCに対して最適な刺激因子を相関させ、最終的には、MSC移植における適切な前処理という観点から最適な刺激因子を選択する。
更に、高度に標準化かつオーダーメイド化された歯周組織再生治療法を確立することに重点を置いて、平成27年度から平成29年度の3年間で得られた研究結果を取りまとめ、研究成果の発表を行なう。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の実験計画に遅れが生じたことによって、試薬発注が平成28年度末となったことに加えて、納期が予定よりも延長されてしまったため、納品が平成29年度となる予定である。このため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度の実験計画として予定しているMicro RNA発現調整細胞の未分化維持および分化の方向付けの検討に対して、分化の方向付けに関するタンパク質同定のために銀染色を行なう予定であり、今回生じた次年度使用額はこれらの実験に必要な試薬購入に充てる予定である。
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