研究実績の概要 |
歯根膜細胞(hPDL細胞)においてEr:YAGレーザー照射後にトランスフォーミング成長因子β(TGF-β)受容体阻害剤であるSB431542(SB)を加えることによりALP活性が低下したことからその作用がTGF-βによるものであることが示唆されたが, レーザー照射が直接細胞内に存在するlatent TGF-βを活性化しないことからlatent TGF-βの活性化に関わり合いの深いマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)のレーザー照射による活性化について調べた。Er:YAGレーザー照射によるMMPの活性化についてはザイモグラフィーを, 遺伝子発現状態についてはリアルタイムRT-PCRにより実験を行った。その結果, MMP-2, MMP-3, MMP-8はレーザー照射により直接活性化されることはなかったが, hPDL細胞においてレーザー照射後3日目に未照射群に比べてそれぞれのMMP遺伝子発現が有意に認められた。 一方, 歯髄細胞(組織)においてEr:YAGレーザー照射は歯髄組織に含まれる内在性のTGF-βを活性化させる効果を示した。SDS-PAGEでは55 kDaのタンパク質バンドの増加が認められ, ゲラチンザイモグラフィーでは61,53,45,40 kDaのMMP活性が顕著に増加し, カゼインザイモグラフィーでは33 kDaのnon-MMPが活性化された。ヘパリン・クロマトグラフィーにおいて, この33 kDaプロテアーゼはヘパリンとの結合親和性を示した。さらに, ブタ歯髄組織由来の不死化細胞(PI細胞)に対するEr:YAGレーザー照射は, 細胞の増殖能およびTGF-βの活性化に影響を及ぼすことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究成果からhPDL細胞に対するEr:YAGレーザー照射は TGF-βを活性化する作用があり, 硬組織形成能を促進する作用があることを確認できた。しかしながら, その作用はレーザー照射により直接的にlatent TGF-βを活性化するものではなく, 各種MMPが深く関わっていることが考えられた。一方, レーザー照射後の生理活性物質添加によるALP活性に顕著な差が認められなかったことから予定していた動物実験の実施は検討中であり, ALP活性がTGF-βによるものであることが確定でき, その作用機序解明のため平成28年度はレーザー照射によるMMPの活性化についてザイモグラフィーを, 遺伝子発現状態についてリアルタイムRT-PCRにより分子生化学的な実験を行った。その結果, MMP-2, MMP-3, MMP-8はレーザー照射により直接活性化されることはなかったが, レーザー照射後3日目に未照射群に比べてMMP遺伝子発現が有意に認められた。このことから, TGF-β活性にはMMPが作用していることが考えられた。 また, 歯髄細胞(組織)においてEr:YAGレーザー照射は歯髄組織に含まれる内在性のTGF-βを活性化させる効果を示した。SDS-PAGEでは55 kDaのタンパク質バンドの増加が認められ, ゲラチンザイモグラフィーでは61,53,45,40 kDaのMMP活性が顕著に増加し, カゼインザイモグラフィーでは33 kDaのnon-MMPが活性化された。ヘパリン・クロマトグラフィーにおいて, この33 kDaプロテアーゼはヘパリンとの結合親和性を示した。さらに, PI細胞に対するEr:YAGレーザー照射は, 細胞の増殖能およびTGF-βの活性化に影響を及ぼすことが示唆された。 以上のことから, おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究成果からhPDL細胞や歯髄細胞(組織)に対するEr:YAGレーザー照射はTGF-βを活性化する作用があり, 硬組織形成能を促進する作用があることを確認できた。しかしながら, その作用はレーザー照射により直接的にlatent TGF-βを活性化するものではなく, 各種MMPが深く関わっていることが考えられた。平成28年度においてレーザー照射によるMMPの活性化についてはザイモグラフィーを, 遺伝子発現状態(hPDL細胞)についてはリアルタイムRT-PCRにより実験を行った。その結果, MMP-2, MMP-3, MMP-8はレーザー照射により直接活性化されることはなかったが, hPDL細胞においてレーザー照射後3日目に未照射群に比べてそれぞれのMMP遺伝子発現が有意に認められた。このことから, 平成29年度は, latent TGF-βと各種MMPの混合物添加による歯根膜および歯髄細胞におけるALP活性の変化について調べ, さらに, MMP活性と深く関わるプラスミン活性について蛍光マイクロプレートリーダーで測定することにより検討し, その遺伝子発現状況もリアルタイムRT-PCRにより調査する。 レーザー照射後の生理活性物質であるエナメルタンパク質, 象牙質タンパク質添加によるALP活性に差が認められなかったこと, およびTGF-β活性の作用機序に関する実験結果を考慮しながらレーザー照射の作用機序解明の研究を中心とし, 動物実験実施の有無を検討する。
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