PhosphodiesteraseはPDE1-PDE11が報告されており、cAMP、cGMP濃度を調整することにより様々な生理作用に関与している。われわれはPDE1が、細胞性粘菌が分泌する物質であるDifferentiation-inducing factor (DIF)のターゲット分子であることを世界で初めて発見し、PDE1が悪性腫瘍細胞の新しい分子標的であることを初めて導き出した。しかし、PDE1特異的阻害剤は、現在のところ臨床応用されていない。一方、PDE5阻害剤としてすでに広く臨床で使用されているsildenafilは、PDE1阻害作用を併せ持ち、これを悪性黒色腫の治療に応用できる可能性がある。われわれはこれまでに、sildenafil がPDE1を阻害することで悪性黒色腫細胞の運動能を抑制することを示してきた。 本年度は、sildenafilが、in vivoで転移抑制効果を示すかどうかを確認するための実験を行った。細胞は、肺に高率に転移するマウスB16-F10 melanoma cellおよび、ヒト口腔由来melanoma MAA cellを使用した。B16-F10 melanoma cellではPDE5が発現しており、PDE5を阻害することによってcGMP経路が活性化すると運動能が促進される(Dhayadeら:Cell Reports)との論文が2016年に掲載されたため、B16-F10は、controlとして使用した。melanoma細胞の移植は、眼窩静脈叢より経静脈的に行った。移植より14日後、肺を摘出し、実体顕微鏡下で転移巣を計数した。PDE1は発現しているが、PDE5を発現していないヒト口腔由来melanoma MAA cellでの実験を開始したが、MAA cellは、眼窩静脈叢からの移植では明らかな肺転移は確認できなかった。sildenafilが、in vivoでの転移抑制効果を示すかどうかを確認するためには、PDE1を発現し、PDE5を発現していない細胞で、マウスに高率に転移する細胞が必要である。MAA cellの移植方法を変更することにより、転移巣が形成される可能性があり、こちらについても検討する必要がある。
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