研究課題/領域番号 |
15K11259
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田村 潔美 北海道大学, 歯学研究科, 助教 (90399973)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 血管 |
研究実績の概要 |
血管形成は、血管内皮細胞の増殖、分化、形態変化を経て機能的な血管となる。しかし、増殖、分化のメカニズムに比べて、血管内皮細胞の初期の形態変化(伸長・紐状構造)についての調節機構についての知見は少ない。マウスES細胞は、OP9フィーダー細胞と共培養することで血管前駆細胞、さらに血管内皮細胞に分化誘導することが可能である。分化誘導された血管内皮細胞は血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の刺激により、OP9細胞上で血管様の細胞伸張を示し、また1型コラーゲンを用いた三次元培養においても血管様のチューブ構造を形成する。申請者は、このES細胞分化誘導系を用いた実験系において、細胞骨格の調節に関与する因子PPP1R14と、平滑筋細胞マーカーとして知られるSM22αが、それぞれ血管内皮細胞の伸長に関与することを見いだしている。そこで、これらの血管内皮細胞での役割・機能の詳細を解析することで、血管伸長のメカニズムを明らかにできるのではないかと考えた。近年、再生医療による組織の回復が応用されつつあるが、組織の再生には、その内部に酸素や栄養を供給する血管網が必要不可欠である。血管誘導のために、VEGF等の増殖因子を用いる方法が試みられているが、増殖因子の機能は、増殖・分化から形態調節まで多岐にわたるため、未成熟な血管の過形成が問題となっている (Chung et al., Cells, vol. 1, p1246-1260, 2012)。そこで申請者は、血管伸張を特異的に制御するメカニズムを解明することで、成熟した機能的な血管の誘導による組織再生に貢献できると考えた。本研究では、マウスES細胞の試験管内分化系と株化細胞を用いた解析によって、血管伸長の調節機構を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、血管内皮細胞におけるSM22αの解析を中心に解析を行った。 ◆ 【血管内皮細胞株と血管壁細胞株を用いたSM22αプロモーター活性の解析】アクチン結合タンパク質SM22αは、血管平滑筋を含む筋系組織に豊富に存在することから、平滑筋細胞マーカーとして広く利用されている。株化血管内皮細胞(bEnd.3)は、細胞外マトリックス等を使用しない通常の増殖培地による培養条件においても伸張形態を示す細胞である。そこで、血管内皮細胞におけるSM22αの転写活性の有無を明らかにするため、bEnd.3と株化血管壁細胞(MOVAS)を用いて、SM22αプロモーターの活性をルシフェラーゼ活性測定によって比較した。MOVASは、非常に高いSM22αプロモーターの活性を示した。一方、bEnd.3においてもSM22αプロモーターの活性の有意な増加が検出された。 ◆ 【血管内皮細胞株と血管壁細胞株を用いたSM22α発現の解析】血管内皮増殖因子(VEGF)は強力な血管形成促進因子である。bEnd.3は外因性VEGFの投与にかかわらず、伸張形態を示し、またSM22のmRNA発現が見られる。bEnd.3はVEGFとその受容体VEGFRの両方を発現することが報告されており、VEGF-VEGFRのオートクリンループ作用の影響が関与していると考えられる。蛍光免疫染色によって、bEnd.3とMOVASにおけるSM22αタンパク質の局在を解析した結果、血管内皮細胞と血管癖細胞のどちらにおいても、SM22αタンパク質のアクチン繊維との共局在が観察された。 ◆ 【血管内皮細胞株と血管壁細胞株を用いたサイトカインのスクリーニング】血管内皮細胞株(UV2)と血管壁細胞株(MOVAS)を用いて、無血清培養での成長因子・サイトカインのスクリーニングを行った。その結果、どちらか一方の細胞種にのみ細胞形態に影響を与える因子として、bFGFが得られた。bFGFの投与は、MOVASの細胞形態を敷石状から紡錘形に変化させる一方、UV2の敷石状形態には影響しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、血管伸長に特異的な調節機構の解析を行う。 これまでの研究によって、ES由来血管内皮細胞、株化血管内皮細胞におけるSM22α mRNA、SM22αタンパク質、またはSM22αプロモーターの活性を同定した。また、胎生マウスの血管発生においても血管内皮細胞におけるSM22αの発現が同定された。これらの結果から、血管形成期の血管内皮細胞においてSM22αは形態変化の指標となる因子であると考えられる。また、血管内皮細胞株(UV2)と血管壁細胞株(MOVAS)を用いた、無血清培養での成長因子・サイトカインのスクリーニングによって細胞種によって、bFGFの細胞形態への影響が異なることが明らかになった。そこで次年度は、bFGFによる血管壁細胞株と血管内皮細胞株の形態変化の違いに、SM22αが関与するかどうか検討し、形態変化の調節メカニウズムの詳細を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行しているため、当初の見込み額と執行額に やや異いが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度の研究費も含めて、おおむね当初の予定に従って研究を進めていく。
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