研究課題/領域番号 |
15K11263
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研究機関 | 九州歯科大学 |
研究代表者 |
有吉 渉 九州歯科大学, 歯学部, 准教授 (40405551)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 破骨細胞 / cudrlan / dectin-1 / spleen tyrosine kinase / オートファジー / エンドサイトーシス / PI3-kinase |
研究実績の概要 |
これまでの研究で、β-グルカンであるcurdlanが、破骨細胞前駆細胞に特異的に発現しているdectin-1受容体を介して、破骨細胞分化を抑制すること、その分子メカニズムとして、spleen tyrosine kinase (Syk)タンパクの分解が関与することを見出した。本課題では、curdlanによるSykタンパクの分解機構を解明することを目的とした。 破骨細胞前駆細胞RAW264.7細胞のdectn-1過剰発現株を樹立し、curdlanを添加して培養したところ、Sykタンパクの発現量が著明に減少した。この現象は、遺伝子発現の抑制を伴わないことから、細胞内分解系による制御を想定した。そこで、bafilomycin A1で前処理を行い、オートファゴソームとリソソームの融合を抑制したところ、curdlan添加によるSykタンパクの発現減少は回復し、Sykタンパクの分解が、オートファジー・リソソーム系に依存している可能性が示唆された。このことはcurdlan添加により、オートファゴソーム・オートリソソームのマーカーであるLC3-Ⅱの形成が誘導されることからも支持された。さらに阻害薬を用いた実験から、このバルク分解系の誘導に、PI3-kinaseの活性化が関与している可能性が示唆された。 一方で、sucroseおよびmethyl-β-cyclodextrinの前処理で、curdlan添加によるSykの分解が部分的に回復した。このことから、分解系の誘導にはclathrin、caveolin、もしくは脂質ラフトを介したエンドサイトーシスが関与していることが考えられた。 以上の結果から、dectin-1を介したcurdlanによる破骨細胞分化抑制に、curdlan-dectin-1の内在化とオートファジー・リソソーム系の活性化が関与していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度に引き続き、平成28年度の目標は「curdlanに誘導されるオートファジーを介したSyk分解機構の解明」であった。「研究実績」に示すようにオートファジーによるSykの分解に関わる因子として、Ⅲ型PI3キナーゼ(PI3K)の活性化を明らかにした。一方で、cudlanの添加により、破骨細胞前駆細胞内の小胞体ストレスセンサー遺伝子の1つであるinositol requiring 1 (ire-1)の発現が亢進していることが見出され、今後、小胞体ストレスとの関連性を含めた新たな研究の展開の可能性が示唆された。 さらに、オートファジーによる細胞内代謝システムの誘導に、エンドサイトーシスの関与を想定して各種の細胞内移行経路の阻害剤を用いて行った実験結果から、クラスリンエンドサイトーシス、カベオリンエンドサイトーシス、脂質ラフトエンドサイトーシスによるdectin-1-Sykのinternalizationが強く関与していることが見出された。この結果は、未解明な点が多い、オートファジーとエンドイトーシスの統合的な制御を明らかにしていく上で興味深い結果と言える。 こうした観点から、当該研究の進捗状況については、おおむね順調に進展していると考えられる。しかしながら、昨年度から行なっているLC3-IIを始めとしたオートファジー関連分子の細胞内局在の評価については、依然完了しておらず、curdlanによる破骨細胞分化抑制メカニズムを詳細に解析していく上で、細胞内の分子イメージングを中心に検討すべき項目が残されている。こうした課題を踏まえて、平成29年度は、curdan-dectin-1結合後の細胞内トラフィックの解明を中心に研究を展開していく予定ある。
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今後の研究の推進方策 |
エンドサイトーシスによるcurdlan-dectin-1内在化メカニズムの詳細な解明のために、より選択的な阻害実験を行うとともに、クラスリンやカベオリンを蛍光標識し、内在化されたdectin-1及びSykのエンドサイトーシス経路におけるメンブレントラフィックの解明を行う。同様に、LC3-IIを蛍光標識し、オートファジー・リソソーム経路におけるメンブレントラフィックについても解明していく。併せて、両経路を個別、または統合的に制御する因子については、PI3-kinase及び小胞体ストレス関連分子を中心に同定を行う。 加えて、破骨細胞分化に必須の転写因子NFATc1を制御するcalcineurinは、細胞内カルシウムによって制御されている。さらに、破骨細胞分化誘導時にはカルシウムオシレーションが観察される。そこで、蛍光プローブを用いて、細胞内カルシウムを標識した上で、curdlanが 破骨細胞分化誘導時の細胞内カルシウム動態に及ぼす影響を評価する。 一方で、将来的な骨代謝疾患に対する創薬を考慮して、卵巣摘出骨粗鬆症モデルマウスに対して、curdlanの投与を行い、非脱灰組織標本を作製、一般染色、酵素染色を行った上で、骨吸収パラメータ(破骨細胞数、破骨細胞面)や骨形成パラメータ(骨芽細胞数、骨芽細胞面)、動的パラメータ(骨石灰化速度、骨形成速度)を定量する。投与方法や濃度についてはこれまでの実験結果をベースに決定する。しかしながら、現時点で薬剤として臨床応用していく上で、cudlanの溶解性に問題点があるため、この改善を目的としたcurdlanの糖鎖修飾を最優先し、それが困難な場合は外用薬としての応用の可能性を模索していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の解析が、平成27年度に引き続き「curdlanに誘導されるオートファジー経路を介したSyk分解機構の解明」であったため、前年度に購入した試薬等、消耗品を継続して使用し、基礎データの蓄積に重点をおいた研究を展開してきた。当初は、オートファジーのメンブレントラフィックについて解析予定であったが、本年度、新たにエンドサイトーシス経路の関与が見出され、今後、両経路の統合的な制御メカニズムの詳細解明が必要になったことから、メンブレントラフィックを中心とした解析は両経路同時に行う必要性があると判断した。この解析に使用する消耗品は、共通のものが多いため、試薬の品質的な使用期限や効率性を踏まえて、平成29年度に遂行することとした。また、掲載論文についても、年度末に受理されたため、投稿費、印刷費が平成29年度に請求されることになった。そのため、学会に係る旅費や印刷費のみの支出となった。
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次年度使用額の使用計画 |
上述したように、オートファジー経路とエンドサイトーシス経路のメンブレントラフィックを中心とした解析に必要な抗体等、消耗品の購入を行う。この解析に使用する消耗品は、高額のものが多く、また、使用量が多くなることが予想されるため、平成28年度未使用分を中心に使用する。 平成29年度の交付分については、申請時の予定通り、カルシウムイメージングや動物実験に係る消耗品の購入、国内外の学会発表に係る旅費や印刷費に加え、curdlanの可溶化に向けた糖鎖修飾に係る費用として使用を考えている。
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備考 |
http://www.kyu-dent.ac.jp/research/lecture/infection_molecule
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