研究課題
高浸潤性癌細胞SAS-H1では、RNA編集酵素ADAR1 mRNAが高発現していた。一方、低浸潤性癌細胞SAS-L1はADAR1 mRNAの発現が低下していた。同様に内因性ADAR1 p110蛋白質も、mRNA発現量に相関して両細胞間で差がみられた。そこで、ADAR1低発現細胞のSAS-L1にレンチウイルスベクターによりADAR1を導入して強制発現細胞(L1-AR1)を作製した。その結果、SAS-H1と同様にL1-AR1は遊走性と基底膜への浸潤性が亢進された。このことから、ADAR1が悪性化進展機構に深く関与していることが明らかとなった。次に、ADAR1蛋白質の標的転写産物であるアンチザイム・インヒビター1(AZIN1)とフィラミンB(FLNB)について、ダイレクトシーケンス法で編集異常の有無をみたところ、SAS-H1で、いずれも高頻度に編集異常を認めた。ADAR1導入細胞L1-AR1でも両者に高頻度の編集異常がみられることから、この結果は裏付けられた。さらに、SAS-H1にRNA干渉法によるADAR1遺伝子ノックダウンを行った結果、AZIN1とFLNBの編集異常が減少したことを確認した。このことから、ADAR1 mRNAの発現亢進によってAZIN1とFLNBの編集異常頻度が上昇することで、浸潤や転移が亢進することが明らかとなった。そこで、ADAR1高発現でANIN1の編集異常が高頻度にみられる細胞を、ヌードマウスに移植し造腫瘍性をみたところ、ADAR1低発現細胞と比べ短時間で腫瘍容積が増加することが明らかとなった。以上の結果から、RNA編集酵素であるADAR1遺伝子の発現亢進によって、ANIN1とFLNBの編集異常が高頻度におきることで、高浸潤性と造腫瘍性を獲得することが示唆された。
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Oncology Letters
巻: 17 ページ: 3555-3561
10.3892/ol.2019.9990