研究課題/領域番号 |
15K11266
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研究機関 | 明海大学 |
研究代表者 |
村上 幸生 明海大学, 歯学部, 准教授 (00286014)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 抗酸化性フェノール関連化合物 / 転写因子 / 転写因子 |
研究実績の概要 |
Eugenol関連化合物は、癌、炎症状態、2型糖尿病、心血管疾患、神経変性疾患および歯周病などのフリーラジカル媒介疾患を緩和するのに有効な抗酸化物質である。それらはその性質と濃度に応じてフリーラジカルスカベンジャーまたはジェネレーターとして作用する。一方、酸化還元感受性転写因子はラジカルの酸化的攻撃により活性化され、炎症やアポトーシス、発癌に関与する。著者らは以前、自動酸化し難い構造の抗酸化性フェノール関連化合物が抗酸化作用を介して炎症性サイトカイン発現を抑制することを発見した。この結果はラジカル化し難いフェノール関連化合物が多くの酸化還元感受性転写因子の転写調節作用を持つことを示唆した。今回の研究では抗酸化性フェノール関連化合物として二量体型biphenol、curcumin、bis-eugenol、magnolol、honokiol、単量体型eugenol、iso eugenolを使用した。また、ポリエンカロチノイドとしてβ-carotene、lycopeneを使用し試験した。 マウスマクロファージ細胞株RAW264.7細胞を用いた細胞傷害性試験ではこれらの化合物は細胞傷害性を示さなかった。これらの化合物は高濃度で炎症促進活性を有し、低濃度でLPS刺激の向炎症性生理活性物質産生や転写因子活性化を抑制する抗炎症作用を有していた。定量的構造活性相関をもとにした検討ではeugenolおよびその関連化合物の二量体は、大きな抗酸化活性および高い求電子性を示すことが判明した。また、活性酸素と反応性が極めて高いTri-n-butyl boraneを用いた試験やheme oxygenase 1発現を通して、カロチノイドや抗酸化性フェノール関連化合物の転写因子活性化抑制作用を含む抗炎症作用はラジカル捕捉活性と関連した求電子剤/抗酸化剤応答エレメント転写系の効力の増強に起因する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究では、低細胞傷害性で自動酸化し難い抗酸化性フェノール関連化合物を探査し、それらが生理活性物質発現を調節できるか調査することであった。過去の研究実績より、細胞刺激物誘導性の生理活性物質の抑制効果を示す抗酸化性フェノール関連化合物の至適濃度はある程度予想がついたので基礎実験を大幅に割愛でき、予定していた化合物の約半数は調査することができた。また、酸化還元に強く関与する化合物や遺伝子発現を通して抗酸化性フェノール関連化合物の抗炎症作用の仕組みが解明されつつある。また、定量的構造活性相関からも転写因子調節作用が示唆されることから概して順調な進捗状況であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究達成度は概ね達成をしていると考えることから、引き続きRAW264.7細胞などを使用して抗酸化性フェノール関連化合物の細胞刺激物誘導性の生理活性物質発現におよぼす調節作用を検討する。また、細胞核蛋白質を回収し細胞刺激物誘導性の酸化還元感受性転写因子活性化におよぼすこれらの化合物の調節作用の検討を進める。さらにこれらの抗酸化性フェノール関連化合物による抗酸化作用の程度を1,1-Diphenyl-2-picrylhydrazyl (DPPH)ラジカル吸収試験を指標に評価する。一方、フェノール構造を持つ関連化合物は大量に摂取するとアレルギー反応などの為害作用を引き起こすことが知られており、これらの傷害作用機構の解明のために生理活性物質調節作用と併せて定量的構造活性相関を用いて検討する。さらに、歯科材料で多用されるacrylic acid関連化合物やcinnamic acid関連化合物の作用を比較することでそのフェノール構造体における不飽和カルボニル化合物の抗炎症/抗酸化作用を検討していく。自動酸化しにくい構造のフェノール関連化合物はいわゆるフェノール作用によって抗酸化性と抗炎症性を発揮できることから、多くの天然抗酸化性フェノール関連化合物の医薬品への応用を検討することにはさらなる興味がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由):数年来実験資源のコストダウンと省力化を図り、実験に使用する器具や試薬を割引価格で購入できたことが多かった。平成29年度もそれに準じており次年度使用額が発生した。このことは、研究プロジェクトを効率的に推し進めた結果生じたものであり、次年度にむけて更なる実験アイテムの拡充と多くの実験データの選別や資料の整理に使用したいと考える。 (使用計画):今年度の研究より抗酸化性フェノール関連化合物の抗炎症作用における酸化/抗酸化のメカニズムが明確になりつつあるので、これらの関与を明らかにするためにReal-time PCR法で酸化還元に関与するいくつかの分子に対する新規プライマーを購入する。さらに、組織細胞における誘導型の生理活性物質産生に及ぼす多種の抗酸化性フェノール化合物による調節作用を継続して検討するためプライマーを補充購入する。また、その情報伝達機構の解明のためのWestern blotに使用する抗情報伝達関連タンパク質抗体、抗転写因子抗体を購入する。これらから得られる結果より、効果的なNSAIDs様作用をもつ抗酸化性フェノール関連化合物をつきとめ、ラジカル媒介慢性炎症や難治性疾患の分子生物レベルにおける遺伝子転写調節に応用していきたいと考える。
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