研究実績の概要 |
本研究課題の目的は,抗酸化物質の事前処置による癌化学療法に併発する口内炎の予防・増悪抑制に関わる効果の解析である。申請者らはこれまで,電子スピン共鳴法を用いて,漢方薬の抗酸化作用を検討してきた。これら背景を踏襲し,本年度は抗酸化作用を明らかにし,かつ口内炎に対し効能が示されている漢方薬(半夏瀉心湯,茵チン蒿湯,黄連湯)の in vivo における口内炎に対する効果について検討を行った。 その結果,3種類の漢方薬投与による体重変化に差は認められなかった。本実験動物モデルは,実験開始4日目で最大口内炎面積を示すが,全ての漢方薬投与グループにおいて最大口内炎面積の減少を認めた。茵チン蒿湯を前投薬したグループでは,蒸留水のみのコントロール群と比較し,口内炎が回復するまでの日程に優位な短縮を認めた。 これまでの検討の結果,本研究に用いた3種類の漢方薬は活性酸素種であるヒドロキシルラジカルに対する抗酸化作用に関し消去作用に有意差は認められないが,スーパーオキシドに対しては 1.0 mg/mLで茵チン蒿湯が他の漢方薬と比較し優位な消去作用の強さを示している。加えて,申請者のこれまでの報告 (Yoshino F et al, PLoS ONE, 2013)からも,口内炎局所におけるスーパーオキシドの消去,および限局された組織内におけるレドックスバランスの回復は,抗がん剤処置時に生じる口内炎軽減のために重要であることから,もっとも強力にスーパーオキシドに対して抗酸化作用を示した茵チン蒿湯が口内炎予防・増悪抑制に優れた漢方薬である可能性が示唆された。 現在,本邦で主に処方,販売されている漢方薬の中で口内炎に効果を示すと記されているものは今回の3種類であるが,今回の結果から,より効果的に抗がん剤治療をする際に用いることが可能な漢方薬は茵チン蒿湯であることが示唆されたため,今後の臨床応用を期待したい。
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