研究課題/領域番号 |
15K11286
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研究機関 | 鶴見大学短期大学部 |
研究代表者 |
藤原 久子 鶴見大学短期大学部, 歯科衛生科, 准教授 (80396746)
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研究分担者 |
川口 浩司 鶴見大学, 歯学部, 准教授 (50277951)
宮嶋 千秋 鶴見大学, 歯学部, 臨床助手 (50723722)
馬杉 亮彦 鶴見大学, 歯学部, 助教 (80351922)
山田 浩之 岩手医科大学, 歯学部, 准教授 (90267542)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 口腔がん / 浸潤能 / 転移能 / 分子標的薬 |
研究実績の概要 |
本研究では、がん細胞の転移・浸潤能のメカニズムについて、PARP阻害剤を投与することによって生じる変化について比較検証している。口腔がん細胞については、HSC-2, Ca9-22, SASの3種類をRIKENより購入した。PARP阻害剤は、現在臨床試験が進められているオラパリブ(AZD2281)を使用した。 まず、3種類のがん細胞に対するPARP阻害剤の毒性試験を行い、それぞれの細胞に対して単回投与では増殖能に影響を及ぼさない濃度を決定し、以後の薬剤投与濃度とした。次に、その濃度を投与し続ける場合に細胞の成長に及ぼす影響を調べ、長期的に投与を続けると有意に細胞の増殖能が低下することが分かった。次に、細胞レベルにおける①接着能、②遊走能、③浸潤能について調べた。①の接着能については、コラーゲンコートした96-wellプレートを用いて接着した細胞をHE染色して細胞数をカウントした。②の遊走能については、細胞運動の定量化として、スクラッチアッセイ法を行った。6-wellプレートに口腔がん細胞を播種・培養し、コンフルエントにし、Mitomycin C処理で細胞増殖能を阻害し、細胞シートに傷をつけ、細胞のない空間に細胞外移動してくる細胞を1時間ごとに観察し、遊走残存面積を計測した。③の浸潤能については、ヒト胎児肺線維芽細胞株(TIG-1-20、医薬基盤研究所より購入)を包埋したコラーゲンゲルを作製し、6-wellプレートに注入、その上で口腔がん細胞を培養、コラーゲンゲルは10%中性ホルマリンで固定後に、パラフィン切片を作製し、HE染色を行った。 3種類の口腔がん細胞の全てに対して、これら①~③の実験を行い、PARP阻害剤の投与によって有意に①接着能、②遊走能、③浸潤能の其々が低下することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、in vitroにおける口腔がん細胞の、①接着能、②遊走能、③浸潤能について、それぞれの実験系で検証を終わらせ、ある程度の結論を見出すこととしていた。そのため、おおむね予定通り順調に進展していると判断している。ただ、想定していたよりも、①・②・③それぞれの実験系の条件検討に時間がかかり、年度内にやっと終わらせられたのが実情である。可能であれば、細胞の接着・遊走・浸潤能ににおける関連因子の発現レベルの変化についても計画を前倒しして検証する予定だったが、予定通り次年度に行うこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究計画の推進は予定通りに進んだので、今後の研究は予定通りに進めることとする。まず、in vitroの研究の続きとして、細胞の接着・遊走・浸潤能における関連因子の発現レベルの変化について、mRNAレベルならびにタンパクレベルでの解析を行う。 次にin vivoにおける口腔がんの浸潤能ならびに転移能の検証として、①口腔がんの浸潤能については、口腔がん細胞をヌードマウスの咬筋領域に移植し、腫瘍形成をさせ、PARP阻害剤投与群とコントロール群における腫瘍の下顎骨への浸潤程度を比較検証する。評価方法は、(1)マイクロCTによる画像所見、(2) 病理学的評価(HE染色, TRAP染色)、(3)浸潤能に関連する因子の免疫組織学的評価によって行う。 次に、口腔がんの転移能の検証として、口腔がん細胞をマウス尾静脈より注射して移植する。細胞移植後、4週間目に解析を行う。評価は浸潤能と同様に、(1)マイクロCTによる画像所見、(2) 病理学的評価(HE染色)、(3)転移能に関連する因子の免疫組織学的評価によって行う。これら、咬筋移植モデルと尾静脈注入モデルについて、PARP阻害剤投与群ならびにコントロール群それぞれについて比較検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の実験にあたり、必要な物品を購入して研究は行われ、概ね当初の予定通りの進捗状況であるが、次年度使用額が生じた。この理由には2つ挙げられる。まず一つめに、研究連携者である長崎大学の益谷美都子博士との打ち合わせのために、旅費を20万かかると見込んでいたのだが、打ち合わせそのものは益谷博士が彼女自身の共同研究先である国立がんセンターに来た際に行うことが出来たため、予定していた20万の旅費を使用せずに済んだことである。しかし、研究に必要な試薬の半数程度は海外からの輸入品で、当該年度の為替相場が円安方向にあることを反映して購入価格が当初の予定よりも10%程度高くなってしまった。これらの2つの事情、予定していた旅費を使用せずに済んだことと、物品購入価格の上昇によって、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の進捗そのものの変更の予定はないが、次年度使用額については、物品費の購入費用に充てる予定である。本年度以降の物品費の購入価格の動向については予想できないが、当初の予定よりも10%程度は価格の上昇が見込まれるため、その分で相殺されると考えている。
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