研究課題
【背景】口腔扁平上皮癌(OSCC)の治療にあたり、様々な診断法や治療法が開発・導入されているが、患者予後の劇的な改善には至っていない。化学放射線療法(CRT)は、OSCCに対する有用な治療手段の一つであり、CRTに対する治療抵抗性は患者予後やQOLを大きく左右する。そのため、治療効果を予測するバイオマーカーの探索や治療抵抗性のメカニズム解明のための研究は極めて重要である。近年、循環マイクロRNA(miRNA)が悪性腫瘍の進展や予後に関わる報告がなされ、CRTの治療効果の予測や予後予測の新規マーカーとして期待されている。しかしながら、OSCCにおけるmiRNA発現の臨床的意義は十分示されておらず、臨床応用への道筋は未だ立っていない。そこで、本研究ではOSCC患者における循環miRNA発現に着目し、臨床的意義について検討を行った。【方法】熊本大学医学部附属病院歯科口腔外科において治療を行い、血液サンプルが得られたOSCC患者55人を対象とした。全ての患者はS-1併用術前CRT 30Gyを施行した後に根治的手術を施行した。術前治療効果が良好/不良の2群間での循環miRNAの発現をマイクロアレイにて解析し、治療効果不良群で発現亢進を認めたmiRNAについて各種臨床項目との検討を行った。【結果】miRNAマイクロアレイの結果より、複数のmiRNAが有意に変動していることが明らかとなった。それらのmiRNAのうち、過去の報告において癌の悪性形質制御に関連していると思われるmiR-Xに着目した。多変量解析において、miR-X発現亢進はpTstageおよびpNstage、CRTの組織学的治療効果、無病生存率との間に相関を認めた。【結論】循環マイクロRNAであるmiR-Xは、OSCC患者における術前CRTの治療効果予測と予後予測の有用なバイオマーカーとなる可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
miR-Xの発現は、単変量解析において、OSCCの分化度、CRTに対する組織学的治療効果、再発、予後と有意な相関を示した。さらに、多変量解析においても、miR-Xの発現亢進は、pTstageおよびpNstage、CRTの組織学的治療効果、無病生存率との間に有意な相関を認めた。以上より、miR-Xの臨床的意義は示されており、概ね、研究は順調に進んでいると考えている。
miR-Xは、腫瘍細胞やその周囲間質に対する癌抑制的マイクロRNA(tumor suppressor-miR)として機能していると考えられ、他癌腫における過去の報告でもmiR-Xが癌抑制的に機能する報告もある。miR-XのターゲットとしてNotch1が挙げられる。Notch1は、近年OSCCにおいて癌遺伝子として作用する報告があり、miR-Xが腫瘍細胞や間質細胞のNotch1の発現を制御することで癌抑制的に機能していると考えられる。今後は、miR-XのNotch1制御によるEMT促進、幹細胞性の獲得、血管新生など、OSCCの治療抵抗性との関連を中心にmiR-Xの機能分析を進めていく予定である。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)
BMC Cancer
巻: 16 ページ: 41
10.1186/s12885-016-2079-6.
PLoS One
巻: 11 ページ: e0152384
10.1371/journal.pone.0152384.
Int J Oral Maxillofac Surg.
巻: 45 ページ: 1395-99
10.1016/j.ijom.2016.04.014.
Molecular and Clinical Oncology
巻: 5 ページ: 57-60
10.3892/mco.2016.882
Int J Oncol.
巻: 49 ページ: 1377-84
10.3892/ijo.2016.3653.
Br J Cancer
巻: 115 ページ: 1234-44
10.1038/bjc.2016.327.
Journal of Oral and Maxillofacial Surgery, Medicine, and Pathology
巻: ー ページ: ー
https://doi.org/10.1016/j.ajoms.2016.08.007
Histol Histopathol.
10.14670/HH-11-821.