前年度までに、手術切開により創部に放出される肥満細胞や白血球由来のトリプターゼやエラスターゼが、Protease-activated receptor-2(PAR-2)を活性化し術後痛を生じること、さらに創部の浸透圧変化およびそれに伴うTRPV4の活性化がその痛みを増強すること、PAR-2/TRPV4それぞれのアンタゴニストを前投与することによりラット術後痛モデルにおいて、自発痛、熱・機械刺激に対する反応を抑制することを確認した。本年は、in vitro skin-nerve preparation による単一神経記録法を用い、一次求心性線維のTRPV4を介した侵害受容感作について検討した。足底皮膚を後脛骨神経と共に採取し、受容野(主にC線維)を同定した後、1.高浸透圧下の自発反応、機械刺激に対する反応、熱刺激に対する反応、および2.TRPV4アンタゴニストのHC067047前処理後の高浸透圧刺激に対する反応、3.Wash out 後の再刺激に対する反応を、足底切開1日後群およびコントロール群で記録・解析した。1.において、コントロール群では15%のC線維が高浸透圧液(500mOsm)に対して自発活動が増加したのに対し、切開群では80%の線維で自発活動の増加が見られた。また、機械刺激や熱刺激に対する感受性に有意差は見られなかった。次に2.において、TRPV4アンタゴニストで前処理した後、再度高浸透圧刺激を加えると、約90%のユニットで自発活動の増加が抑制された。さらに3.においてこの反応が可逆的であることを確認するためにwash outした後、再度高浸透圧刺激を加えたところ、85%の線維でアンタゴニスト投与前と同程度の反応が見られた。以上の結果から、vivoにおける創部の浸透圧の上昇と術後痛の関係が、TRPV4を介して成立していることが強く推察された。
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