前年度までの所見により、マウスiPS細胞はヒト成熟細胞との共培養により中胚葉系細胞への分化誘導は促進される可能性が示唆されること、βTCPに骨芽細胞を浸透させた移植物をラット頭蓋骨欠損モデルへ移植することで骨再生が促進される可能性が示唆された。一方、研究室で有する知見を考慮すると、iPS細胞を発生過程に準じた分化誘導法に則り培養した方がより効率よく中胚葉系細胞に分化誘導することができることが考えられた。マウスiPS細胞は、着床前のマウス胚より作製されるマウスES細胞に相当する。一方、着床後のマウス胚より作製されるマウスエピブラスト幹細胞は、多能性の維持や増殖にマウスiPS細胞とは異なる添加因子を必要とする。そこで、マウスiPS細胞をマウスエピブラスト幹細胞の培養条件に馴化させる過程を導入した方がより成熟細胞から分泌される成熟促進因子に応じて中胚葉分化誘導に応じるのではないかと考え、検討した。結果、マウスiPS細胞の培養条件からエピブラスト幹細胞の培養条件に馴化するように培養した方が、リアルタイムPCRにて初期中胚葉系マーカーであるbrachyuryがサンプル間のばらつきが少なく、ピーク時の発現量がより亢進することが示唆された。次にミニブタiPS細胞を用いて中胚葉系の細胞へ分化誘導を試みたが、研究室で有する知見をもとにヒトiPS細胞を用いた中胚葉系細胞の分化誘導のほうが、効率が良いと考えられた。そこで、本年度は、研究室でより多くの知見を有する、ヒトiPS細胞から中胚葉系細胞の分化誘導方法について検討した。研究室で有するプロトコールに則りヒトiPS細胞由来中胚葉系細胞に組織化させたものをヌードマウス背部皮下に移植し、8週間の経過観察を行った。サンプルを回収し、解析したところ、X線撮影にて不透過像が観察され、組織学的解析にて骨組織が観察されたことから、移植した中胚葉系細胞から再生骨が形成されたことが示唆された。
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