研究課題
mTOR 阻害剤(分子標的薬)のシロリムスは、若年女性の希少難病であるリンパ脈管筋腫症(略称LAM)の治療薬(中田ら、New Engl.J.Med. 2011)として、申請者らを中心に医師主導治験が行われ、2014年、世界で初めて薬事承認された。高頻度に発症する有害事象の一つに口内炎がある。それによりしばしば摂食・嚥下や会話等の機能が低下することがあり、投薬の減量や中止を余儀なくされることもある。しかしmTOR 阻害剤による口内炎の発症機序は不明であり、有効な予防法も確立されていない。そこでまず、シロリムスによる口内炎発症の臨床的研究として、2012年6月から2014年7月までの2年間にシロリムスが投与された63例を対象として、口内炎の発症状況ならびにそのリスクファクターに関する分析を行った。その結果、63例中、56例(88.9%)に口内炎が発症した。口内炎に関するリスクファクター分析により、服薬時のヘモグロビン濃度が低い症例ほど、口内炎の累積発症率が高かった。さらに、シロリムスの投与後、貧血のタイプの指標であるMCV(平均赤血球容積)とMCH(平均赤血球ヘモグロビン量)が経時的に急速に減少したが、その際、最初の3ヵ月でのMCVならびにMCHの減少量が大きい症例ほど、口内炎の累積発症率が高かった。さらに口内炎に関するin vitroでの基礎的研究として、患者から採取した口腔粘膜細胞を7継代から8継代まで細胞培養した。次いで同培養細胞上にシロリムスを添加し、培養細胞の反応を観察した。その結果、培養細胞の増殖/生存能は50%程度に抑制され、DNA合成能は20%程度低下した。核の面積はシロリムス0nMに比べ、10nMの方が有意に小さくなっていた。細胞の面積はシロリムス0nMに比べ、0.1nM、1nMならびに10nMの方が有意に小さくなっていた。
2: おおむね順調に進展している
1)ヒト口腔粘膜上皮細胞の培養:新潟大学歯学部倫理委員会の承認のもと、同意の得られた患者より口腔粘膜を採取し、無血清培地(EpiLife®)の存在下で口腔粘膜上皮細胞を培養した。2)シロリムス添加培地による口腔粘膜上皮細胞の培養3)細胞増殖能分析:リンパ脈管筋腫症におけるシロリムス有効トラフ血中濃度は、5-15ng/mlとされているが、これは、5-15 nMにあたる。ほとんどは、赤血球中に分布しているので、実際に患者の血漿中のシロリムス濃度は、数十pMと思われる。口腔粘膜細胞(8から9継代したもの)を無血清培地中で培養し、そこにシロリムスを添加して、4日目に生残率をMTTアッセイで調べたところ、IC50は、およそ0.2 pMであった。4)形態的検索:細胞形態については位相差顕微鏡下で観察した。口腔粘膜細胞は、楕円形から紡錘形の付着細胞でるが、シロリムス存在下では小型紡錘形細胞の割合が増加した。光学顕微鏡下で観察、画像化した。5)表面抗原検索:シロリムス存在下および非存在下で培養した口腔粘膜細胞のAnexinⅤの発現を調べたところ、シロリムスの濃度が高くなるにつれ、発現が上昇した。シロリムス濃度の増加により、細胞死の割合が高くなると思われる。
1. シロリムスによる口内炎の発症機序を解明するために、ヒト口腔粘膜細胞の培養を行い、シロリムスの存在下での培養細胞の反応を観察している。それにより種々の条件下により、単層培養細胞での実験を行ってきたが、さらに培養細胞を重層化して、より実際の口腔粘膜に近い状態により観察を行う。2. また、臨床的所見として、シロリムスを長期的に投与すると、口内炎が3ヶ月程度で改善するという所見が認められることから、シロリムス存在下で長期培養を行い、口腔粘膜細胞と短期立ち上がりの口腔粘膜細胞のDifferential Displayを観察する。
シロリムスによる口内炎の発症機序を解明するために、ヒト口腔粘膜細胞の培養を行い、シロリムスの存在下での培養細胞の反応を観察している。それにより種々の条件下により、単層培養細胞での実験を行ってきたが、さらに培養細胞を重層化して、より実際の口腔粘膜に近い状態により観察を行いたい。しかし培養細胞の重層化には6週間程度の期間を要するため、補助事業期間を延長する必要が生じた。
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Pharmacoepidemiol Drug Saf.
巻: 26 ページ: 1182-1189
10.1002/pds.4259. Epub 2017 Jul 28.