研究課題
本研究では顎矯正手術を安全に施行するために、気道の術前診断法の確立を目指し、上気道通気状態シミュレーションを用いて顎矯正手術の周術期における気道の通気状態を明らかにすることを目的に研究を行い,以下の実績を得た。1.顎矯正手術の周術期の3DCT画像データから、上気道通気状態シミュレーションを行い、気道の通気状態を機能解析した。2.顎矯正手術の周術期において終夜睡眠ポリソノグラフィー検査(以下PSG検査)を行い、睡眠呼吸障害の状況を明らかにした。3.気道通気状態に問題があると考えられている小下顎症の発症と関連すると思われる変形性顎関節症の発症について、英国リバプール大学との共同研究を開始した。2.については、下顎前突症患者の術前のPSG検査から、無自覚症状患者においても睡眠呼吸障害患者が認められたこと、BMIが高値の患者でAHIが高くなること、REM睡眠時ではNREM睡眠時よりもAHI が高くなることを明らかにした。また、下顎前突症患者において顎矯正手術前に行われた全身麻酔下での智歯抜歯術の周術期に、簡易型PSG検査を行い、手術当日や翌日よりも術後2~3日に呼吸状態の低下が起こっていることを明らかにした。これらの結果から、一般的に気道通気状態が良いと考えられている下顎前突症においてもBMI高値の患者やREM睡眠時に注意すべきことが示された。また、下顎の後方移動に際しては、下顎骨を半時計回りに回転させるように移動した症例においては、周術期の最低SPO2が高かった。これらの結果から、下顎骨の後方移動では、下顎が時計回りに回転しながら後方移動する症例では、術後の気道に注意することが必要ということを示しおり、周術期管理において重要な知見が得られた。
2: おおむね順調に進展している
本研究に参加した顎変形症患者は30名を越え、順調に症例は増えている。CT画像検査、PSG検査も順調に行い、現在データを解析中である。下顎前突症患者における睡眠呼吸障害の状況については、2017年3月に開催された国際口腔顎顔面外科学会にて3演題を報告した。睡眠呼吸障害の発現が多いと考えられている小下顎症の発症は変形性顎関節症とも関連していると考えられている。この変形顎関節症の発症について英国リバプール大学とも共同研究を始め、より多角的に顎顔面骨格形態と睡眠呼吸障害の関連性を解明する準備ができた。オレキシンについては、本研究申請後に血清からの測定ではなく、脳脊髄液からの測定が望ましいことが報告された。しかし、脳脊髄液を顎変形症患者から採取することは倫理上も困難であることから、本研究ではこれについて解析しない方針に変更した。しかし、オレキシンのデータがなくても画像検査やPSG検査から本課題を十分に解明できるデータが蓄積されてきているため、進捗状況は概ね順調と考えられる。
本年度は本研究課題の最終年度のため、本年度の中間で参加症例をまとめて解析を行う。PSG検査時に咬筋と舌骨上筋群に筋電図計を装着しデータを収集しているため、睡眠時のブラキシズムと顎形態との関連性を明らかにする。形態と機能との関連性を総合的に解析して、顎変形症患者における周術期の睡眠気道状態について解明する。英国リバプール大学、米国スタンフォード大学、鹿児島大学、北海道大学との連携を強化し、結果をまとめる。
オレキシン測定のための試薬等を購入する予定であったが、研究計画の変更に伴い支出が減少した。
簡易型PSG検査のプローブの購入に充てる
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