研究課題/領域番号 |
15K11313
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
入舩 正浩 広島大学, 医歯薬保健学研究院(歯), 教授 (10176521)
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研究分担者 |
兼松 隆 広島大学, 医歯薬保健学研究院(歯), 教授 (10264053)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | サブスタンスP / 脊髄後根神経節培養細胞 / 脊髄後角組織スライス / マイクロダイアリシス法 / セロトニン受容体リガンド / イミプラミン / オピオイド受容体 / モルヒネ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、既存の全身麻酔薬が下行性鎮痛系を抑制することを示し、手術時の鎮痛・不動化を得るために臨床上より高用量の麻薬性鎮痛薬が使用されていることを明確にすることにある。また、選択的セロトニン受容体リガンドの活用により痛覚抑制系を増強する、新しい全身麻酔法が確立できれば、呼吸・循環抑制といった重篤な副作用のある麻薬性鎮痛薬を使用しなくてもよくなるかも知れない。 本年度は、ラットの脊髄後根神経節(DRG)培養細胞と脊髄後角組織スライスからのサブスタンスP(SP)遊離を選択的セロトニン受容体リガンドが抑制し、全身麻酔薬が増強するか、in vitro実験を行った。また、侵害刺激による一次知覚神経終末からのSP遊離を選択的セロトニン受容体リガンドが抑制し、全身麻酔薬が増強するか、in vivoマイクロダイアリシス法により明確にすることを予定した。その結果、DRG培養細胞を用いた実験では、capsaicin刺激あるいは高濃度K+刺激により遊離量は有意に増加したが、選択的セロトニン取り込み阻害薬のimipramine、静脈麻酔薬のGABAA受容体に作用するpropofol、NMDA受容体拮抗薬ketamineおよび麻薬性鎮痛薬のmorphineはSP遊離に影響を及ぼさなかった。脊髄後角組織スライスに対するcapsaicin刺激あるいは高濃度K+刺激によりSP遊離量は有意に増加したが、この増加作用はmorphineにより有意に抑制された。PropofolによりSP遊離量は濃度依存性に増加し、このpropofolによって促進されたSP遊離はmorphineによって濃度依存性に抑制された。一方、imipramine、ketamineはSP遊離に影響しなかった。脊髄でのin vivoマイクロダイアリシス法は手技的にかなりの困難を伴い、現在のところ結果を出すには至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ごく初期の電気生理学的研究で、痛覚との関連が明らかでなかった様々な脳の領域を電気刺激すると強力な鎮痛作用が得られることがわかり、これを下行性鎮痛系と呼んだ。この痛覚抑制系は、大きく3つの連結した経路からなる。(1)中脳水道周囲灰白質領域のニューロンは、信号を神経伝達物質であるエンケファリンを介し(2)縫線核および傍巨大細胞網様核へと伝える。これらの核から二次信号が(3)脊髄後角へと送られ、5-hydroxytryptamine(5-HT; セロトニン)を遊離させる。セロトニンは、脊髄の介在ニューロンからエンケファリンを遊離させる。エンケファリン神経は、脊髄後角でシナプスを形成し痛みの伝導路である一次求心性神経のAδ線維とC線維からの入力をシナプス前およびシナプス後抑制すると考えられている。このように、生理的痛覚抑制系は脊髄への最初の入力点で侵害刺激により引き起こされる痛み信号を阻止することが可能である。しかし、全身麻酔薬がこの生理的痛覚抑制系にどのような影響を与えているのか検討した研究はこれまで全くなされていない。 本研究によりこの系への全身麻酔薬の影響を調べる際、本年度では脊髄後根神経節(DRG)培養細胞と脊髄後角組織スライスを用いたin vitro実験を行っているが、この方法では上位中枢との相互神経連絡路が切断されてしまい、全身麻酔薬の影響は限定されてしまう。その点、脊髄でのin vivoマイクロダイアリシス法は全身麻酔薬のこの系への作用をより明確にすることが可能である。しかし、脊髄でのin vivoマイクロダイアリシス法は手技的にかなりの困難を伴い、現在のところ結果を出すには至っていない。研究期間中には結果を出せるようにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、ラットの脊髄後根神経節(DRG)培養細胞と脊髄後角組織スライスからのサブスタンスP(SP)遊離を選択的セロトニン受容体リガンドが抑制し、全身麻酔薬が増強するか、in vitro実験を行った。また、侵害刺激による一次知覚神経終末からのSP遊離を選択的セロトニン受容体リガンドが抑制し、全身麻酔薬が増強するか、in vivoマイクロダイアリシス法により明確にすることを予定した。その結果、DRG培養細胞を用いた実験では、capsaicin刺激あるいは高濃度K+刺激により遊離量は有意に増加したが、選択的セロトニン取り込み阻害薬のimipramine、静脈麻酔薬のGABAA受容体に作用するpropofol、NMDA受容体拮抗薬ketamineおよび麻薬性鎮痛薬のmorphineはSP遊離に影響を及ぼさなかった。脊髄後角組織に対するcapsaicin刺激あるいは高濃度K+刺激によりSP遊離量は有意に増加したが、この増加作用はmorphineにより有意に抑制された。PropofolによりSP遊離量は濃度依存性に増加し、このpropofolによって促進されたSP遊離はmorphineによって濃度依存性に抑制された。一方、imipramine、ketamineはSP遊離に影響しなかった。脊髄でのin vivoマイクロダイアリシス法は手技的にかなりの困難を伴い、現在のところ結果を出すには至っていない。そこで、今後は、脊髄でのin vivoマイクロダイアリシス法の手技を確立し、それによりSP遊離抑制作用が確認されたセロトニン受容体サブタイプリガンドを用いてそれが鎮痛・不動化作用を有するか、行動薬理学的に明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
単純な計算ミスにより15,721円の繰越金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
15,721円の繰越金は次年度に消耗品の購入に充てる。
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