研究課題/領域番号 |
15K11315
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
永井 宏和 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部, 准教授 (50282190)
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研究分担者 |
宮本 洋二 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部, 教授 (20200214)
玉谷 哲也 徳島大学, 大学病院, 講師 (30274236)
藤澤 健司 徳島大学, 大学病院, 講師 (40228979)
大江 剛 徳島大学, 大学病院, 助教 (60432762)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 骨再生 / 炭酸アパタイト / コラーゲン / iPS細胞 |
研究実績の概要 |
平成27年度は,低結晶性炭酸アパタイトとコラーゲンの複合化を行い,ウサギ頭頂骨への埋植実験を行った.また,骨再生医療の細胞ソースとして用いるiPS細胞のフィーダーレス培養法を確立するとともに,細胞ストックを作成した. ① 炭酸アパタイト・コラーゲン複合体の作製:低結晶性炭酸アパタイト顆粒とコラーゲン溶液を混和した後,円柱状金型に炭酸アパタイト・コラーゲン混和溶液を充填した.凍結乾燥後,150℃で熱架橋を行い,炭酸アパタイト・コラーゲン複合体を作製した.コラーゲン濃度を1%,2%,3%として複合体を作製したが,1%と2%の場合は均一な複合体ができなかった.炭酸アパタイトとコラーゲンの重量比を50, 60, 70, 80%として複合体を作製したが,80%では均一な複合体が作製できなかった.熱架橋なしの複合体は生理食塩水中ですぐに溶解したが,熱架橋を行うことで,試料の溶解性が改善できた. ② 炭酸アパタイト・コラーゲン複合体のウサギ頭頂骨への埋植:①の結果から,Col濃度を3%として炭酸アパタイト・コラーゲン複合体を作製し,ウサギ頭頂骨に熱架橋なしの複合体を埋植して,8週後に組織学的評価を行った.骨形成は良好であったが,移植部から顆粒が分散してしまっている個体もあり,操作性と安定性に問題があった.そこで,150℃で熱架橋を行った炭酸アパタイト・コラーゲン複合体を埋植した. ③ iPS細胞の細胞ストック作製とフィーダーレス培養法の確立:理化学研究所から購入したヒトiPS細胞(HPS0002)を実験に用いた.まず,iPS細胞をマウス胎仔線維芽細胞をフィーダーとして培養を行い,十分な細胞ストックを作成した.また,フィーダーレス培養法の確立を行った.フィーダーレス培養法で継代培養,凍結保存を行ったiPS細胞について,多能性を維持していることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず,顆粒径 300-600 μmの炭酸アパタイトを用いて,コラーゲンとの複合化条件の検討を行った.コラーゲン濃度が1%と2%の場合は均一な複合体ができなかったことから,コラーゲン濃度を3%とした.次に,炭酸アパタイト顆粒とコラーゲンの重量比を50-80%として複合体を作製したが,80%では均一な複合体が作製できなかった.さらに,顆粒径 600-1000 μmの炭酸アパタイトを用いて複合化を図ったが,同様の結果となった.最後に,熱架橋の影響を検討したが,熱架橋なしの複合体は生理食塩水中ですぐに溶解してしまったが,熱架橋を行うことで,試料の溶解性が改善できた. 次に,炭酸アパタイト・コラーゲン複合体のウサギ頭頂骨への埋植実験を行った.ウサギ頭頂骨に熱架橋なしの複合体を埋植して,8週後に組織学的評価を行ったが,骨形成は良好であった.移植部から顆粒が分散してしまっている個体もあり,操作性と安定性に問題があったため,現在,150℃で熱架橋を行った炭酸アパタイト・コラーゲン複合体を埋植して評価を行っている. 骨再生医療の細胞ソースとして用いるiPS細胞の培養系(フィーダー細胞を用いた培養とフィーダーレス培養)を確立し,その特性を検討した.免疫染色とアルカリフォスファターゼ染色の結果では,維持培養,凍結,解凍を繰り返し行ったiPS細胞が多能性を維持していることを確認した.本研究を行うためには,均質で十分なiPS細胞のストックが必要であるが,ヒトiPS細胞の増殖が遅く,細胞ストックの作成に時間を費やした.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,生体骨がコラーゲンと炭酸アパタイトを主成分とする有機・無機複合体であることから,申請者らが開発した新規生体吸収性材料である低結晶性炭酸アパタイトとコラーゲンを複合化させた新しい骨再生用scaffoldを開発しようと考えた.現在の低結晶性炭酸アパタイトは顆粒状やブロック状であり,賦形性や操作性に問題があったが,コラーゲンと複合化することで,これらの問題点が改善できると考えている.そしてこの骨再生用scaffold とiPS細胞由来の骨芽細胞と組み合わせたハイブリッド型人工骨を創製して新しい骨再生医療を目指す. 低結晶性炭酸アパタイトとコラーゲンの複合化は,コラーゲン濃度や,炭酸アパタイトとコラーゲンの重量比,炭酸アパタイトの顆粒径,熱架橋温度など種々の条件を検討し,炭酸アパタイト・コラーゲン複合体の作製には成功している.今後は,種々の条件で作製した炭酸アパタイト-コラーゲン複合体の埋植実験を行い,生体内での最適なscaffoldを決定する予定である. また,iPS細胞の間葉系幹細胞への分化誘導実験および骨芽細胞への分化誘導実験を引き続き行う.この分化誘導では,iPS細胞をLIF非存在下に血清を用いて培養して分化を誘導する.培養4日目に,PDGFRα陽性, VEGFR2陰性の分画をFACSでソートして培養し,さらにCXCR4を用いてソートして間葉系幹細胞を純化していく予定である.この分化誘導実験が上手くいけば,iPS細胞由来の間葉系幹細胞あるいは骨芽細胞を炭酸アパタイト・コラーゲン複合体で培養し,炭酸アパタイト・コラーゲン複合体を用いたハイブリッド型人工骨を創製する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では,申請者らが開発した新規生体吸収性材料である低結晶性炭酸アパタイトとコラーゲンを複合化させた新しい骨再生用scaffoldを開発し,これとiPS細胞から分化させた間葉系幹細胞(あるいは骨芽細胞)と組み合わせることで,ハイブリッド型人工骨を作製して新しい骨再生医療の可能性について検討する予定である.平成27年度は,iPS細胞の培養と低結晶性炭酸アパタイト・コラーゲン複合体の作製を行った.低結晶性炭酸アパタイト・コラーゲン複合体の埋植実験がやや遅れていて,平成27年度には組織学的な評価が行えなかったため,その費用が平成28年度に繰り越されることになった.
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に繰り越された費用は,低結晶性炭酸アパタイト・コラーゲン複合体の埋植実験の組織学的な評価,およびiPS細胞の間葉系幹細胞あるい骨芽細胞への分化誘導実験に使用する予定である.
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