研究課題
本研究は、口腔、咽頭粘膜実質再生を実現するために、口腔粘膜上皮、口腔粘膜上皮下組織、筋組織から抽出された細胞を用いてそれぞれの細胞シートを創製することを目的とし、それらを積層したハイブリッド型細胞シートの移植と、その治癒過程を観察することを目的としている。さらに積層シートの構造維持に必須な細胞骨格である中間径フィラメント、接着タンパクの局在について、周囲生体が持つ構造との比較を主眼とした観察を行うことを計画した。本年度は、日本家兎の頬粘膜組織から採取した上皮細胞、上皮下結合組織由来の線維芽細胞、筋芽細胞を用いて、細胞シートを作製し、積層させ、in vivoにおけるこれらの構造をin vitroにて再現し、この積層シートにおける組織的観察、タンパク局在観察のため、H-E染色、免疫組織化学的染色、共焦点レーザー顕微鏡による観察、RT-PCR法、Western-blot法を行った。また、上皮下結合組織由来の未分化な線維芽細胞や、筋組織から採取した筋芽細胞の多分可能を調べ、積層シートの維持との関わりについて考察を行い、論文として投稿した。さらにこの積層シートを日本家兎の頬粘膜下に移植し、その治癒過程の観察を開始した。その結果、上皮層、間葉層、筋層と3層の良好な積層シートが完成し、それぞれの層において細胞骨格関連タンパク及び接着タンパク、また細胞の恒常性を保つ未分化な細胞のマーカーが維持されているのを確認した。上皮下結合組織由来の間葉系の細胞、及び筋芽細胞はそれぞれ多分化能があり、間葉系の幹細胞である可能性の一旦が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初目的とした口腔粘膜積層シート(含む筋層)の創製については、目的に近いものが完成し、論文として数編投稿し、一部は評価を受けている(一部は受理済)。そのシート作製手技についても熟練し問題がなく、安定的に作製が可能となった。また唯一問題であった、最深層の筋組織を活性化させるために、未分化な状態(分化程度としては筋管をつくり始めた程度)を保たせるシートを作製することに成功した。今年度は日本家兎の頬粘膜下にシートを移植し、観察を開始できたため、研究計画としてはおおむね順調に進展していると判断した。
一番の問題点である、積層シートの最深層部分については今後更なる検討を加えたい。いくつかの条件で作製したシートを様々な染色法を施し比較検討し、論文としてきちんと議論を残したいと考えている。予想されることとしては、筋層が未分化である事によって、移植後の周囲組織とどうかしやすく、さらには上層(結合組織部分)のフィーダーとしての役割も担うのではないかと、予備実験の結果から推測している。今後は、その点を考慮し、さらには移植後のデータを集積してin vitroデータとの比較検証を行っていくことを計画している。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件)
International Journal of Oral Science
巻: 8 ページ: 145-154
10.1038/ijos.2016.16
Journal of Oral Biosciences
巻: 58 ページ: 158-166
http://dx.doi.org/10.1016/j.job.2016.05.005