研究課題/領域番号 |
15K11324
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
野間 昇 日本大学, 歯学部, 准教授 (70386100)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ボツリヌス菌神経毒タイプA / ION-CCI / 口腔顔面痛 / pERK-IR |
研究実績の概要 |
ボツリヌス菌神経毒タイプA(BoNT-A)を使用しラット口腔顔面痛モデル(ION-CCI)後に生じる異常疼痛に対するBoNT-Aの効果を調査した。ION-CCI群では、モデル作製7日目に口腔顔面領域(口ひげ部)にBoNT-Aの皮下注射を施行。 BoNT-A 投与後14日と21日に機械的アロディニア、痛覚過敏を測定した。当研究では動物ラットを4グループに分類した。ION-CCI+BoNT-A 20 pg(low doseグループ)、ION-CCI+BoNT-A 200 pg(high doseグループ)、ION-CCI+salineグループ、およびshamグループ。機械的アロディニアと痛覚過敏はION-CCI手術の術前 、7日、14日、および21日に測定した 。口ひげ部に機械的侵害刺激後に、 三叉神経脊髄路核尾側亜核(Vc)および上部頚髄(C1-C2)においてphosphorylated extracellular signal-regulated kinase(pERK)分布パターンと免疫反応ニューロンの数量測定を行い、免疫解析を行った。BoNT-A 投与21日後に、機械的アロディニア、痛覚過敏はBoNT-A(high dose グループ)で減弱したが、痛覚過敏はBoNT-A(low dose グループ)では有意な差は認められなかった。さらに、口ひげ部への機械的侵害刺激後の免疫染色学的実験では、VcおよびC1-C2領域においてBoNT-A(high dose グループ)ではION-CCI+ salineグループ よりpERK-IR細胞の数は有意に低下した。これらの発見は、口腔顔面領域へのボトックス注射を行うことによりVcの興奮性ニューロンを抑制し、顔面の機械的アロデニアと痛覚過敏を抑制することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
咬筋収縮モデルラットを用いて、ボトックスによるATPの減弱は確認できなかった。そのためATPのレセプターP2Xの一次ニューロンの免疫組織化学実験は施行していない。IONーCCI(慢性顔面痛モデル)を用いたところ、CCIで誘発された機械的アロディニア、痛覚過敏は消失し、当初計画した咬筋収縮モデルより仮説に近い結果を得た。そのため慢性顔面痛モデルを使用し、二次ニューロンでのニューロン興奮性マーカーであるPERPの発現がボトックスにより減弱した予想した結果が得られた。これはボトックスが一次性求心線維を通して伝達され、一次性求心線維末端のレセプターに何らかの侵害受容伝達の阻害が生じてしてことがわかる。しかしながら、当初予定したボトックス注入後のマイクログリアの三叉神経節の発現、三叉神経脊髄路核尾側亜核での発現は顔面痛+salineよりも多かった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、咬筋疲労モデルを再度使用し、濃度、容量を変え経時的変化を観察する。濃度は1pg、10pg、50pg、100pg、200pg、容量は5ul,10ul,20ulと3種類で行う。タイムコースはボットクス注入後1日、3日、5日、7日、10日、14日、21日で行動学的実験(筋圧痛覚過敏:PPT)を測定する。一番効果がでた時間で筋圧から放出されるATPの濃度測定、三叉神経節でのP2X細胞、CGRP、SPを免疫組織化学的に検索(咬筋から逆行性に投射されるニューロンとの陽性細胞のマージ)を行う。また三叉神経脊髄路核尾側亜核でのアストロサイト、マイクログリアがボトックスにより形態的に減弱しているか免疫染色を用い確認する予定。さらに減弱があった場合にはそれらの非神経細胞(アストロサイト、マイクログリア)からの放出されるサイトカイン(インターロイキン1β、インターロイキン6、TNFα)の有無も調べる。最後にボトックスによる口腔と顔面の疼痛制御機構の違いをみるために、舌痛モデル(舌神経クラッシュ)を使用しボトックスの効果を定量感覚検査を用い、行動学的検索を行う。感覚検査では温覚、冷覚閾値、触覚閾値(ブラシ)、痛覚閾値(ピンチ)、ワインドアップなどを行う。舌痛の自発痛への効果を調べるために三叉神経脊髄路核尾側亜核でのcFOSを用いて免疫組織化学的に検索する。このように咬筋疲労モデルによる顔面痛と口腔領域の痛み(舌痛)のボトックスの作用の違いを解明することで、慢性痛の患者のQOLを高めることができると期待する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来は咬筋疲労モデルの痛覚過敏発症時の咬筋からのATPを測定予定であったが、行動学実験で仮説通りに結果がでなかったため、その他の慢性顔面痛モデルを使用した。慢性顔面痛モデルでボトックス高濃度(200pg)で疼痛抑制が確認されたため、再度、咬筋疲労モデルで使用する。そのため、当初予定していたATP測定、三叉神経節でのP2X、SP、CGRPの免疫組織学的実験実施の遅れがこのような結果につながった。更に三叉神経脊髄路核尾側亜核でのマイクログリア、アストロサイトの発現も免疫組織化学実験を行うことになっていたが、同様の理由で遅れが生じてしまっている。
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次年度使用額の使用計画 |
咬筋疲労モデルで使用し、ATP測定(ATP測定キッド購入予定)、三叉神経節でのP2X、SP、CGRPの免疫組織学的実験実施(それぞれの抗体を購入)。三叉神経脊髄路核尾側亜核でのマイクログリア(IBA1抗体購入)、アストロサイト(GFAP抗抗体)の発現も免疫組織化学実験を施行。ボトックス注入に対する口腔痛と顔面痛の制御の違いを見るために、舌痛モデルを使用(85匹~100匹)する。行動学的実験では既存のプローブを使用するが、触覚検査ではvonfrey filamentが必要であるため購入する。三叉神経脊髄路核尾側亜核でのcFOSの発現をみるため、cFOSの抗体も購入する。最後に実験結果を国内外の学会で発表し、論文作成のため英文校正にだす予定である。
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