研究実績の概要 |
発育中の歯根尖は根完成歯とは異なる特徴があることから、根未完成歯の矯正歯科治療を行う際には配慮が必要と考えられている。しかしながら、その科学的根拠は十分明らかになっているとは言えない。そこで本年度は、動物実験モデルを用いて発育中の歯根に対する機械的矯正力の影響を明らかにすることを目標として研究を行った。 生後21日齢雄性SDラットの第一臼歯(M1)に1,3,5,7日間3-5gfの矯正力を付与した。さらに、3日後と7日後に矯正力を解放し、35日齢で歯根尖組織の形態や細胞増殖能、各種タンパクの局在や mRNAの発現を評価した。 矯正力付与後1日と3日では、M1近心根根尖部でラミニンの局在の増加を伴う歯根尖形態の変化が認められた。矯正力付与後7日では、歯根尖部が屈曲して発育し、マイクロフォーカス X線CTでの解析より、対照群に比べ歯根長が有意に減少した。また、免疫組織化学的手法により根尖部組織の細胞増殖能の低下、およびin situ ハイブリダイゼーション法により、I型コラーゲンα1mRNAおよびオステオカルシンmRNAの発現の変化が認められた。3日後に矯正力を解放した群では35日齢で歯根尖形態に明らかな異常は認められなかった。また、7日後に矯正力を解放した群では、歯根尖部屈曲の改善が認められなかった。 本研究では、比較的短期間の矯正力付与では明確な悪影響は認められなかった。他方、比較的長期間矯正力を付与するとヘルトヴィッヒ上皮鞘の形態および歯根尖部の細胞動態への影響により歯根尖形態が変化することが明らかとなった。
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