研究課題/領域番号 |
15K11353
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
中納 治久 昭和大学, 歯学部, 准教授 (80297035)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 下顎骨 / 応力解析 / メージベース動的有限要素解析 / 不均質性 / 皮質骨 / 骨密度 / ヤング率 / 衝撃解析 |
研究実績の概要 |
(目的)本課題は、「下顎骨のイメージベース動的有限要素解析法の開発と骨隆起発生原因の解明」を目的に研究を行っている。イメージベース動的有限要素解析法の開発には、骨の不均質性が解析結果にどのような影響を与えるか評価する必要がある。そこで平成27年度は、皮質骨内に空間的に骨密度を分布させたモデルを用いた動的解析を行うことによって、骨密度分布を考慮しない解析の妥当性を検証することを目的として研究を行った。 (方法)試料にはヒト献体下顎骨を用いた。献体下顎骨から下顎骨解析モデルを作成し、マイクロCTによって皮質骨内部の骨密度とヤング率の空間的な分布を測定した。下顎骨解析モデルを9つの領域に分割し、1)それぞれに測定した骨密度とヤング率を与え、空間的な骨密度とヤング率を考慮したモデルを作成した。さらに、このモデルと2)9つの領域に同じ骨密度とヤング率の値を与えたモデル、および3)骨密度分布の幅を誇張したモデルを作成し、各々を比較検討した。 (結果)1)と2)に対して静的・衝撃解析を行った結果、解析結果に差異は認められなかった。1)と3)に対して静的・衝撃解析を行った結果、骨密度変化が33%以上になると解析結果に影響が出ることが確認できた。 (考察)空間的な骨密度分布を考慮した下顎骨の静的・衝撃解析より、骨密度分布を考慮する必要が無いと考えられた。さらに、骨密度分布の幅を誇張したモデルに対して静的・衝撃解析を行った結果、33%以上の変化で解析結果に影響が出ると確認できた。しかし、荷重によって骨密度が33%以上変化することは無いと考えられ、荷重による変化についても考慮する必要がないと結論づけた。 (結論)下顎骨応力解析においては骨密度とヤング率の空間的な分布を考慮する必要が無いと示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究計画は、1)動的解析における骨密度(以下BMD)の不均質性の影響を評価し、不均質性を考慮した動的解析を考案、2)下顎骨全体のイメージベース動的FEM解析モデルを作成することであった。 1)に関しては、研究実績の概要に記載したように、CT値の分布が動的解析にどのような影響を与えるかを評価することを目的として、①ヒト下顎骨の皮質骨を分割、②μCT (inspeXio SMX-90CT,㈱島津製作所,東京)を用いて18μmで撮像.骨塩定量ファントムから各部位の正確なBMD値を算出、③FEMモデルを9分割し、各々の部位のBMD値を当てはめてμCTイメージベース動的FEM解析解析を行う、④さらに、各部位のBMD値を変化させ、動解析結果に大きな違いがでるか比較検証した。その結果、下顎骨応力解析においては骨密度とヤング率の空間的な分布を考慮する必要が無いと示唆された。 2)に関しては、以下の手順で実験を進めた。下顎骨全体を撮影可能な工業用μCT装置(東京都立産業技術研究センター)が開発されたため、①工業用μCTを用いて、歯を含めた下顎骨全体の高精細画像100μm程度のCT画像を採取した。今後、②下顎骨の海綿骨、歯および歯根膜を考慮した静的FEMモデル、動的解析モデルを作成する予定である。なお、動的解析に必要なソフトは、イメージベース静的構造解析ソフトウェアの並列版VOXELCONを動的解析用にカスタマイズし、平成28年1月26日、昭和大学に納品済みである。
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今後の研究の推進方策 |
今後、平成27年度までに行った研究結果を参考に、1)イメージベース動的FEM解析を用いて骨隆起と応力波の関係を検証する、2)骨隆起のある患者さんから得られた既に撮影されたCT画像から、個体別のイメージベース動的FEM解析を行うことを計画している。 平成28年度は、その研究に先立ち、①歯根膜を考慮した下顎骨動的FEMモデルの作成と検証、②下顎骨全体の100μmでμCT撮影された高精細画像から海綿骨、歯および歯根膜を考慮した静的FEMモデル、動的解析モデルの作成と検証、③②で撮影した下顎骨を、臨床で用いられているコーンビームCTを用いて400μm程度の低精細画像で撮影、静的FEMモデル、動的解析モデルを作成する。そして、②と③の力学解析結果を比較検討し、CT画像の影響を検証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の直接経費交付額は、1,500,000円の予定であった。しかし、本研究遂行上、イメージベース静的構造解析ソフトウェア 並列版VOXELCON(㈱くいんと製)を平成27年度に購入し、動的解析可能にカスタマイズする必要があった。PCワークステーションを含めてソフトを購入するには、1,688,882円必要で、その他の直接経費を差し引くと、平成27年度の直接経費交付額では足りない状況であった。そこで、平成27年度に700,000円の前倒し支払い請求を行い、受理された。 以上より、次年度使用額100,934円が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度中に700,000円の前倒し支払い請求を行い、本研究に必要なイメージベース静的構造解析ソフトウェア 並列版VOXELCON(㈱くいんと製)とPCワークステーションを購入完了。動的解析可能にカスタマイズも終了した。以上より、平成28年度の交付額は当初の1,700,000円から1,000,000円に減額されたが、平成28年度の研究に支障はないものと考えられる。 今後の使用計画としては、動的解析ソフトの修正費用、動的解析、検証実験に必要な治具の開発、消耗品の購入、論文の英文校正費等を考えている。さらに、研究の状況に応じて、設備備品の高速カメラ撮影システムの購入を検討したい。
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