前年度から継続して、NiTiコイルスプリング矯正装置(15g荷重)を使用して、ラット上顎第一臼歯の近心移動実験を行った。動物モデルを用いた矯正学的な歯の移動処置においては、負荷される矯正力の性質(荷重量、作用方向、負荷頻度)を規定することにより、動物の麻酔導入からNiTiコイルスプリングの装着まで30分程度で完了できるプロトコールを確立できた。第一臼歯の近心移動にともなう疼痛(自発痛)の関連行動について、ビデオカメラ撮影による行動解析を行った結果、矯正力の負荷後1日でFace Groomig行動が最大値を示し、矯正力負荷後5日目には無処置群と同一レベルにまで回復した。また、歯の近心移動に伴う誘発痛の有無を検証する目的で、ラット口吻部におけるvon Frey hairによる逃避反射閾値を測定したところ、誘発痛においても矯正力負荷後1日目で逃避反射閾値が有意に減少し、矯正力負荷後5日目に回復することが確かめられた。歯の近心移動に伴う歯根膜組織由来の三叉神経節ニューロンの興奮性増強に対する三叉神経節内のニューロンとグリア細胞間のクロストークの役割を解明する目的では、上顎第一臼歯歯根膜部に蛍光色素(2% Fluorogold)をマイクロシリンジで注入し、歯根膜部を支配する三叉神経節ニューロンを標識したうえで、グリア細胞活性化マーカとTNAαまたはIL-1βを組み合わせた免疫染色を実施した。
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