外科的矯正治療後の咽頭気道形態の変化について多くの検討が行われ、術後の気道の矮小化やその回復についての報告が散見される。さらに近年では睡眠時無呼吸障害が大きな論点となっている。そこで、『睡眠呼吸障害を伴う顎変形症患者の外科的矯正治療が、咬合や顔貌のみならず、呼吸機能の改善にもつながる理想的な治療計画を考案する』ことを研究の全体構想として掲げ、なかでも上気道容積と形状の変化、呼気の気管内流れに着目し、『外科的矯正治療における上気道閉塞部位診断評価システムと治療予測モデルの構築』について明らかにすることを目的とした。 我々がこれまで行ってきた研究で、手術中に梨状孔下縁を切削した症例で、術後に鼻腔の通気状態が改善するという結果を得ている。 今回我々は、梨状孔下縁切削(2mm以上の切削を実施している)の効果を明らかにするため、梨状孔下縁を切削していなかった場合を想定した、梨状孔下縁狭窄モデル(1mmおよび2mm狭窄モデル)を作成し流体解析を行った。 その結果、2mm狭窄モデルでは、術後に術前より鼻腔通気が悪化するという結果が数症例で見られた。それらの症例は術前から鼻弁断面が狭窄していたものであった。2mmの狭窄は鼻腔断面積にそれほど大きな影響を与えないと考えられがちだが、術前から鼻弁断面が狭窄した症例では大きな影響を持つことが明らかとなった。 この結果から、上顎骨上方移動術に際して梨状孔下縁を切削するというオプションを追加することが、呼吸・睡眠機能の点において有用である可能性が示唆された。 今回行った『狭窄モデル』という考え方は、実際には行っていない、検証することが出来ないはずの症例について再考する機会を生むものである。このモデルを利用することで、手術の限界値や手術の設定による通気変化を予想・検証することができると考えている。
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