近年、小児の唾液中に存在する齲蝕原性細菌であるStreptococcus mutans菌数は減少する傾向にあり、齲蝕があるにも関わらず、S. mutansが検出されない小児が増加している。そこで、口腔内には、乳幼児の重度齲蝕において重要な位置を占めていると考えられている乳酸菌群が存在することから、本研究の目的は、乳酸菌が関連する新たな齲蝕発生メカニズムを明らかにすることである。 岡山大学医歯薬学総合研究科倫理委員会承認のもと、岡山大学病院小児歯科を受診された患児のうち、齲蝕を認める患児の唾液を採取し乳酸菌を分離同定し、その齲蝕原性について検討を加えた。結果として乳酸菌単独では、スクロース依存性平滑面付着能はS. mutansと比較すると低下していたが、S. mutansと混合して培養した場合、乳酸菌単一で培養した時と比較して、付着率が有意に高くなった。また、バイオフィルムの構造を観察したところ、乳酸菌は固層表面に単独でもバイオフィルムを形成することが可能であることが明らかとなった。さらに、乳酸菌単一のバイオフィルと比較して、S. mutansと混合して培養した場合のバイオフィルムでは、密度が高くなり、高さも増加していた。そこで、培養中に乳酸菌を作用させたS. mutansから全RNAを抽出し、Real-Time Reverse transcription PCRにより、S mutansのグルカン合成酵素であるグルコシルトランスフェラーゼの発現を調べたところ、乳酸菌を作用させていないS. mutansと比較して有意に発現の上昇が認められた。これらのことから、乳酸菌の存在は、齲蝕の発生に大きく関与している可能性が示唆された。 一方で口腔内より分離された乳酸菌のコラーゲン結合を調べたところ、S. mutansと比較してコラーゲン結合能が顕著に高い乳酸菌の存在が明らかとなった。この結果は、乳酸菌の存在は、象牙質齲蝕の進行に関連している可能性が示唆された。
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