研究課題/領域番号 |
15K11381
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
岩崎 剣吾 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 講師 (40401351)
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研究分担者 |
小牧 基浩 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (30401368)
森田 育男 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (60100129)
和泉 雄一 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (60159803)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 再生 / 幹細胞 |
研究実績の概要 |
我々は平成27年度研究実施計画に沿って、歯根膜由来間葉系幹細胞(PDLSC)の培養および不死化間葉系幹細胞の培養、幹細胞性の比較を行った。歯根膜組織をコラゲナーゼ/ディスパーゼを用いた酵素処理法を行うことで、コロニーを形成しながら増殖する細胞群を得た。これらの細胞群はオイルレッド陽性の脂肪滴を有する脂肪細胞様に、またvon Kossa陽性の石灰化像を示す骨芽細胞様、さらにはアルシアンブルー陽性の軟骨形成を示す軟骨細胞様に分化する能力を有していた。また、PDLSCから培養上清を採取しタンパク濃度を計測したところ、約20~50 microg/mlの総タンパク質が含有されていた。また、10 kDa cut-offを持つ限外濾過にて1度濃縮を行うと、タンパク濃度は約500~800 microg/ml程度になり、さらに濃縮を行うと約5000~7000 microg/ml程度へ増加した。 一方、骨髄由来間葉系幹細胞の不死化細胞株であるUBE6T-7, UE6E7-12, UE7T-13を理化学研究所バイオリソースセンターより入手し培養した。細胞増殖速度についてはUBE6T-7が他の二つの細胞に比べて増殖が遅い傾向を認めた。また、上記のPDLSC同様にin vitroでの分化系を用いて分化能を検討したところ、UE6E7-12, UE7T-13は脂肪、骨への分化が認められたが、UBE6T-7はその分化能が非常に弱い事が明らかとなった。また、UE6E7-12とUE7T-13の間ではUE7T-13の方が骨、脂肪への分化いずれもUE6E7-12と比較して高い結果が得られ、間葉系幹細胞の多分化能についてはUE7T-13が最も高い事が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は本申請課題の初年度にあたるため、抜去歯からの歯根膜幹細胞の培養を確立した。歯根膜幹細胞の培養方法は未だプロトコールの多くの部分が統一されておらず、場合によって細胞が回収できない場合があるなど、問題があった。そのため、安定した細胞の回収を目的として、主に細胞分散液(コラゲナーゼ/ディスパーゼ)溶液の作用時間と培養液の最適化を行った。その成果として歯根膜幹細胞採取の成功率は大幅に改善され、また培養も安定して行う事が出来るようになった。このステップに多くの時間が費やされる結果となったが、今後2年の研究の基礎となる部分であるためこの成果の意味は大きいと思われる。一方、骨髄間葉系幹細胞については既に生育医療センターにおいてbmi-1、E6、E7、hTERTの遺伝子導入によって不死化が確認されている細胞株が入手可能であったため、これらの株を使用した。3つの不死化細胞を選択し培養した。In vitroにおける、各種不死化間葉系幹細胞の幹細胞としての分化能は差があり、具体的にはUE7T-13が最も高く、逆にUBE6T-7が最も低い結果となった。細胞間において分化能が異なるという結果は、今後培養上清によって行う歯周組織再生能の検討において、メカニズムを解析する上で有用と考えられる。一部、これら不死化間葉系幹細胞から得られた培養上清を単球系細胞株に作用させたpilot研究を行っており、その結果では培養上清による抗炎症性作用が、培養上清を回収した間葉系幹細胞株の分化能と相関している傾向が見られており、この点においても検討を続けてゆく予定である。以上の結果より、研究はおおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の大きな目的の一つに、培養上清による組織再生のメカニズムを解明する事がある。そのための方策として、我々は組織を良く治す培養上清と直さない培養上清を比較することを足掛かりにしたいと考えている。本年の研究において、3つの不死化間葉系幹細胞がそれぞれ異なる分化能を示した事は、この実験目的に非常に都合が良いと思われる。今後、これら3つの細胞から得られる培養上清の性質を検討し、具体的には組織修復に関与する細胞へのin vitroでの影響の違い、in vivoにおける歯周組織再生能の比較を行う予定である。また、歯根膜幹細胞については初代培養細胞の確保が可能となったので、細胞の不死化を行いクローンの選定、性質の詳細な検索を行う予定である。 また、メカニズム解析においては、液性因子の網羅的な解析が重要であり、今後、液体クロマトグラフィー質量分析やプロテインアレーを用いて、広範囲に間葉系幹細胞培養上清に含まれているタンパク質を解析する。その際にも、由来間葉系幹細胞の幹細胞性、分化能との相関に注目する。もし、タンパクが再生において中心的な役割をしているのであれば、培養上清の濃縮倍率についての検討も重要と考えられ、この点についての動物実験も検討する。 間葉系幹細胞培養上清を用いた歯周組織再生治療の将来的な臨床応用を視野に入れた場合、イヌ、ミニブタなどの中動物における動物実験が必須であると考える。この点についても実験を考えている
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は主に歯根膜幹細胞の初代培養を行った。多額の費用が必要となる同細胞の不死化については平成28年度に行うため、その費用が平成27年から28年に繰り越された。 また、消耗品の使用にあたってはなるべく無駄を省き、最低限の支出を心がけたため、以前に比べて日常的な細胞培養にかかる費用が減少したのが理由と考えられる。また、平成28年度に動物実験が予定されており、多くの費用が必要となる事が予想されていたため、平成27年度中は出来る限りの出費をおさえたのが理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は動物実験を予定しており、動物の購入、飼育、手術器具の購入などに多くの研究資金が必要となる。さらに、歯根膜幹細胞の不死化に伴う遺伝子導入関連消耗品を多数購入する必要がある。
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