研究課題/領域番号 |
15K11384
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
杉田 典子 新潟大学, 医歯学系, 助教 (30313547)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 歯学 / 遺伝子 / 免疫学 / 歯周炎 |
研究実績の概要 |
脱共役タンパク(uncoupling protein, UCP)はミトコンドリア内膜に存在し、エネルギーを熱として消費させる。UCP1は主に褐色脂肪細胞、UCP2は白血球および白色脂肪細胞、UCP3は褐色脂肪細胞と骨格筋に分布する。UCPは骨粗鬆症、肥満、糖尿病などの疾患において重要な役割を担っている。これらの疾患と歯周炎の間に関連性が報告されているが、これまでUCPと歯周炎との関連は知られていなかった。本研究は歯周炎、糖尿病、肥満、骨粗鬆症とUCP遺伝型との関連性を解析し、さらにUCPの歯周炎における役割を解明し、これらの疾患の診断と治療の発展に寄与することを目的としている。疫学的解析より、UCP2およびUCP3遺伝型は重度歯周炎と関連していたが、歯周炎と肥満あるいは糖尿病、骨粗鬆症との間には関連性が見いだせなかった。 UCP2について炎症・免疫における制御機能を示唆する文献があるため、これを対象としてin vitro解析を行った。ヒト単球系細胞であるTHP-1をPMA刺激しマクロファージ様細胞を誘導し、蛍光抗体法およびqPCRにてタンパクおよびmRNAレベルでUCP2の発現を確認した。次いで代表的歯周病原細菌であるPorphyromonas gingivalis由来のlipopolysaccharide (LPS)にて刺激したところ、タンパクおよびmRNAいずれにおいてもUCP2発現の減少が認められた。次に同細胞にsiRNAを用いたUCP2ノックダウンを行いP. gingivalis LPS刺激後の活性酸素産生を測定したところ、コントロールに比し活性酸素産生の亢進が認められた。このことからUCP2はP. gingivalis由来LPS刺激による活性酸素産生を抑制することが示唆された。これらの成果を2016年6月に韓国ソウルにて開催されたIADR学会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究計画は、細胞実験としてTHP-1由来マクロファージ様細胞を用いてLPS刺激時のUCP2 mRNAおよびタンパクレベルの変化を解析するとともに、UCP2ノックダウンによるLPS刺激時の活性酸素産生への影響について実験を行って成果を韓国ソウルにて開催されるIADR学会にて発表することであった。ここまでについて、全く計画通りに行うことができた。また、ヒト歯根膜細胞においてもUCP2の発現を確認することができた。さらにTHP-1由来マクロファージの実験系において、UCPノックダウンがサイトカイン産生に与える影響を調べるため培養上清中のサイトカインをELISA法にて測定する系についても、実験が進捗しており、順調である。しかしヒト歯肉組織を採取して歯周炎におけるUCP発現を解析する系については、平成28年が当大学倫理委員会の大幅な改組・改革が行われる途中に当たったため、まだ承認を得られておらず進展していない。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きTHP-1由来マクロファージ様細胞およびヒト歯根膜細胞を用いてP. gingivalis由来LPS刺激時のサイトカイン産生に対するUCP2の役割を解析するためのノックダウン実験を行う。同時に、倫理委員会の承認を得て慢性歯周炎患者5名より同意を得て歯肉サンプリングを実施し、ヒト歯周組織におけるUCP発現および局在を観察する。また、歯肉におけるUCP mRNAレベルを測定する。これらの成果を平成29年12月に京都にて開催される日本歯周病学会記念大会にて発表するとともに、国際学術雑誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
倫理委員会からの承認が予定より遅れたため患者からの歯肉サンプリングとその免疫組織化学およびqPCRによるUCP発現解析にかかる費用支出がなかった。一方でTHP-1細胞およびヒト歯根膜細胞を使用した細胞実験を行ったが全体を合計すると予定した使用額を下回った。
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次年度使用額の使用計画 |
倫理委員会の承認を得て同意を得た患者からの歯肉サンプリングを行い免疫組織化学およびqPCRによるUCP発現解析を行う予定である。またTHP-1細胞およびヒト歯根膜細胞を使用した細胞実験の続きを行う予定であり、これらにより次年度使用額となった相当額を使用する予定である。
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