研究課題/領域番号 |
15K11403
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
林 潤一郎 愛知学院大学, 歯学部, 講師 (30350937)
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研究分担者 |
内記 良一 愛知医科大学, 医学部, 講師 (10434622)
福田 光男 愛知学院大学, 歯学部, 教授 (40156790)
三谷 章雄 愛知学院大学, 歯学部, 教授 (50329611)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 歯周病原細菌 / 唾液細菌叢 / 咽頭細菌叢 / 咽頭上皮細胞 / 咽頭常在菌 |
研究実績の概要 |
歯周病の治療において、歯周病原細菌であるPorphyromonas gingivalis(以下P. gingivalis)の抑制は重要な項目であるが、口腔内から完全に同菌を排除することは難しく、一時的には検出限界以下まで抑制したとしても、一定期間後には再定着を生じる。本研究課題では、咽頭部に生息する同菌が口腔内へと流入し再定着を促す一因となっていると仮定し、咽頭部において同菌が排除もされず炎症も生じずに定着が可能となっているメカニズムの検討を試みている。 本年度は昨年に引き続き、ヒト咽頭由来の株化上皮細胞であるDetroito562細胞を用いて、P. gingivalisによる刺激実験を行った。この実験では、咽頭の常在細菌の影響で、P. gingivalisが存在しても、炎症応答が起きず、同菌が排除されずに定着していると仮定し、その検証を進めている。まず、本菌のLPSを用いて同咽頭上皮細胞からのIL-8発現を調べたが、LPS濃度依存的にIL-8発現が増加する傾向は認められたものの、常に有意な増加を示す訳ではなく、結果が不安定であったため、LPSによる刺激を断念し、P. gingivalis培養上清に対する反応を調べることとした。その結果、P. gingivalis培養上清は咽頭上皮細胞におけるIL-8を有意に増加させることが分かった。そこで、咽頭部の常在細菌であるStreptococcus salivarius(以下S. salivarius)の培養上清で咽頭上皮細胞を前処理した上で、P. gingivalis培養上清刺激を行った。その結果、S. salivarius培養上清での前処理を行うと、P. gingivalis培養上清で刺激を行ってもIL-8発現が上昇しないことが分かった。期間の延長を行った次年度はその現象が生じるメカニズムを詳細に検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
細菌叢解析については、咽頭サンプル採取を行っていた耳鼻咽喉科医が連携研究者から外れて以降、新たなメンバーが参加しておらず、サンプリングが難航している状況は変わらず、解析が進んでいない。 一方、細胞応答解析については、P. gingivalisのLPSの刺激では上皮細胞からのTNF-αやIL-1βの産生が低いことが分かったため、炎症の指標をIL-8に変えて実験を行った。しかし、LPS濃度依存的にIL-8発現が増加する傾向にはあったが、有意差が得られず、刺激物質を変更することとした。 代わりの刺激としてP. gingivalis培養上清を用いて実験を行ったところ、咽頭上皮細胞におけるIL-8発現は上昇した。そこで、この炎症性応答が咽頭常在細菌の存在下でどう変化するかを調べる目的で、S. salivarius培養上清での前処理を行った実験を行った。 まず、S. salivarius培養上清による刺激で咽頭上皮細胞が炎症応答を示すかどうかを調べた結果、S. salivariusの培養用の培地単体で多少IL-8発現が上昇するものの、それを用いて実際にS. salivariusを培養した上清を用いても、それ以上の上昇は見られず、S. salivariusは咽頭上皮細胞に炎症を生じないことがわかった。 次に、S. salivarius培養上清で前処理を行った上で、P. gingivalis培養上清による刺激を行ったところ、S. salivarius前処理なしの場合と比較しIL-8発現が抑制された。したがって咽頭上皮細胞ではS. salivariusの存在により、P. gingivalisによる炎症が抑制される可能性が示唆された。現時点では、ここまでしか検討が進んでおらず、その現象の詳細なメカニズムを調査するため、平成30年度まで期間を延長した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、咽頭上皮細胞に対してS. salivarius培養上清で前処理を行った上でP. gingivalis培養上清による刺激をしても、IL-8の発現上昇が生じないという現象を、遺伝子発現のレベルで捉えることができたため、次にまず、蛋白レベルで同様な現象が見られるかどうかを確認する。 また、P. gingivalis刺激が培養上清によるものであるため、何が主たる刺激物質なのかを確かめる必要がある。そのために、1)蛋白分解酵素の阻害剤を入れる、2)Toll様受容体をブロックする等の処置を施した上で、咽頭上皮細胞に対してP. gingivalis刺激を行い、IL-8の発現がどう変化するかを調べる予定である。 S. salivarius培養上清で前処理を行うとP. gingivalis培養上清による刺激をしても、IL-8の発現上昇が生じないということは、S. salivarius培養上清での前処理により、炎症応答を抑制する因子が産生されていると考えられるため、それが何かを確かめる必要がある。その第一候補として、まずTGF-βが発現しているかどうかを確認する。もし、S. salivarius培養上清での前処理によりTGF-βが発現して入れば、次にそれをブロックして、IL-8の発現が上昇するようになるかどうかを調べる予定である。 TGF-βが関与していないと判明した場合には、サイトカインアレイを使用し、どの様なサイトカインが発現しているかを調べ、その中で炎症応答抑制に関わる因子を検索して、何が関与しているのかを確認する。 そこまで確認できたら、最終的に、細胞内でのシグナル伝達を調べる予定である。P. gingivalis培養上清中の主たる刺激物質がLPSであれば、TLR-4の下流を、リポタンパク等であればTLR-2の下流のシグナル伝達を調べる計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初想定していた現象が確認できず、刺激物質や調査を行うサイトカインを再々変更するなど、計画の修正を行うのに時間を要した。そのため、計画に遅延を生じ、必要な試薬や消耗品等の購入に至らなかったため、次年度への持ち越しを行うこととなった。特に、細胞刺激実験において、蛋白レベルでの実験や細胞内シグナル伝達の実験が未達であるため、購入計画していたELISAキットやNF-κB 活性測定キット、各種抗体・リガンド、ウェスタン試薬等が未購入であり、次年度で購入することとなった。 次年度は、それら消耗品の購入と同時に、学会発表等の成果報告に使用する予定である。備品等の購入を行う予定はない。また、細菌叢解析が中断しており、体制の問題から次年度での再開が困難であるため、シークエンス関連の消耗品の購入は行わず、全て、細胞刺激実験に使用する予定である。
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