これまでの研究により、口腔インターメディウスレンサ球菌の臨床分離株から線毛を同定、精製し、遺伝子情報まで決定していた。構成遺伝子から線毛の成分としてのタンパク質はSaf2とSaf3の2つから成り立っていることを示した。また、相同性の解析からSaf2は線毛の先端に位置している、付着因子であり、一方でSaf3は線毛本体の繊維状の構造を作るコアタンパクであることが示唆された。同定できた遺伝子情報から作成した変異体の解析からコアタンパクSaf3に唾液成分への結合能が確認できた。本来付着因子であるはずの線毛先端に位置するチップタンパクSaf2の役割は未確認であったので、本研究では、Saf2タンパクが脳、肝臓などへの宿主深部への感染症の成立に重要な働きをしている、との仮説に基づき役割を解析した。
その結果として以下の知見が得られた。Saf線毛の構成成分でコアタンパクであるSaf3が唾液のプロリンリッチタンパクと結合することにより口腔内への定着感染が成立することで1次コロニーを形成する。この状態で長期にわたり口腔常在菌として生存する。次に肝炎などに炎症が起きて肝臓の細胞からカルバミルリン酸合成酵素が多量に流出することでチップタンパクであるsaf2が肝臓に定着して2次感染が成立する。その結果として、膿瘍などの感染性病変を引き起こすことが示唆された。この2段階の感染機構はピロリ菌でも示されており、多くの細菌で利用しているものと考えられる。
コンピューターによる分子構造解析を行うことで両分子間の結合機構を解析したところ、鍵になるSaf2側の構造は同分子中程に位置する約100アミノ酸からなる領域で、相同配列が他の口腔レンサ球菌の表層タンパクに存在していた。これらは主にコラーゲン結合タンパクとして知られているものであり、結合機序を共有していることが示唆された。
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