研究課題/領域番号 |
15K11435
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研究機関 | 鶴見大学 |
研究代表者 |
井上 一彦 鶴見大学, 歯学部, 非常勤講師 (30649570)
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研究分担者 |
山口 一郎 国立保健医療科学院, 生活環境研究部, 上席主任研究官 (50311395)
花田 信弘 鶴見大学, 歯学部, 教授 (70180916)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 福島第一原発事故 / 放射性核種 / ストロンチウム90 / プルトニウム238 / プルトニウム239+240 / 乳歯 / 核実験由来 |
研究実績の概要 |
福島第一原発事故により環境に放出された放射性核種のストロンチウム90(以下90Sr(大気中への放出量の推定:140TBq),プルトニウム239(以下239Pu,同:0.0032 TBq)はヒトに摂取された場合に,その一部が歯,骨に蓄積することから,歯をバイオアッセイの試料として用いることが考えられる.乳歯は永久歯に較べ短期間で多くの歯を収集することが可能である. そこで,東京電力福島第一原発事故で環境に放出された放射性核種の人体への移行を調べるために日本全国より乳歯を集め,乳歯中での放射性核種(90Sr,238Pu,239+240Pu)の濃度を,生年別,地域別に調査することを目的として研究を実施している.現在まで,乳歯は全国より約1500本収集されている. そのうち,2003年,2004年が生年である東京都,埼玉県,愛媛県新居浜市,愛媛県八幡浜市の乳歯群について測定調査を実施した.対象として,以前収集した生年1980年の成人第三大臼歯群での調査測定も行った.その結果,238Pu,239+240Puに関してはすべての試料において検出限界未満であった.90Srに関しては,成人第三大臼歯群より9.6±2.2mBq/g・Caの90Srが検出された(不確かさは計数誤差を示す.以下同様).乳歯群では,生年2004年の東京都乳歯群で6.8±2.1m Bq/g・Caの90Srが検出されたが,他の乳歯群では試料の量がこれよりも小さいために検出限界未満であった.ストロンチウム90がいくつかの試料から検出されているが,第三大臼歯は福島第一原発事故以前に収集されたものであり,核実験由来のものと推察される.乳歯に関しても収集は事故後であるが,歯冠形成期は胎生期から出生後であると考えられるのでバックグラウンドとしての蓄積であり,事故前のデータが得られたと考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
乳歯を生年別,地域別に収集継続中で,乳歯収集状況は秋田;20,宮城;10,山形;50,福島;3,東京;487,神奈川;30,千葉;20,埼玉;247,静岡;32,愛知30,大阪;50,広島:10,愛媛;412,福岡;10,熊本;96,鹿児島;60,沖縄;12,総計1579本である.今まで①埼玉(2003年生年,35本),②東京(2003年生年,57本),③愛媛県新居浜市(2003年生年,45本),④愛媛県八幡浜市(2003年生年,29本),⑤埼玉(2004年生年,34本),⑥東京(2004年生年,54本),⑦愛媛県新居浜市(2004年生年 48本)⑧愛媛八幡浜市(2004年生年,18本)の乳歯8試料と,対象として⑨成人第三大臼歯(1980年生年,埼玉13本)の9試料を測定した. 歯石やカリエス,軟組織等を可及的に除去した後,乾燥させ8時間電気炉でアルミナるつぼに入れ,焼結させ灰化し,深型メノウ乳鉢を使って粉末にして,53meshの篩を通過したものを試料とした.計測は文部科学省放射能測定法シリーズにより実施した. 【結果】238Pu,239+240Pu:すべての試料(④,⑧以外測定)において検出限界未満であった. 90Sr:⑨成人第三大臼歯より9.6±2.2mBq/g・Caの90Srが検出された.乳歯群では⑥東京都のみ6.8±2.1m Bq/g・Caの90Srが検出された(H28.04時点換算で計数誤差も示す). 【考察】第三大臼歯は福島第一原発事故以前に収集され,核実験由来のものと推察される.乳歯に関しても収集は事故後であるが,歯冠形成期は胎生期から出生後なので検出された90Srはバックグラウンドとしての蓄積と考えられる.これまでに得られていた1970年以降の生年の乳歯と比べても減少していることが確認されると共に,今後,原発事故の影響を調べるための比較対照となるデータが得られた.
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今後の研究の推進方策 |
ストロンチウム90がいくつかの試料から検出されているが,第三大臼歯は福島第一原発事故以前に収集されたものであり,核実験由来のものと推察される.乳歯に関しても収集は事故後であるが,歯冠形成期は胎生期から出生後であると考えられるのでバックグラウンドとしての蓄積であり,事故前のデータが得られたと考えている.2004年東京都乳歯群のみ検出され,他試料が検出限界未満になったことは個人ベースでの蓄積が,偶発的に生じた結果であることは否定できないが他試料に関して,サンプル数が少なく(20g以下)検出限界数値が上昇したことに関連することも示唆される.よって,東京都のみの地域差が生じたものではないと考えているが,今後も生年別,地域別に20g以上の試料を揃え,測定調査を実施していく. また,乳歯の歯冠形成期は胎生期から出生後であることを考慮すると原発事故の影響が,生じうるのは2011年生まれの乳歯からと推測されるので,今後も乳歯収集は継続していく. 238Pu,239+240Puは検出限界(0.004mBq/g灰)以下であったが,サンプル量を増やし再度測定調査するが,プルトニウムに関しては乳歯への蓄積量が少なく検出は困難であることが確認されたことから研究継続を打ち切る可能性も示唆される.被災地からの収集が少ないことは,この方面への乳歯収集依頼を強化することにより改善することも考えられるが,他研究グループと試料集めが競い合う形になっていることも原因であることが推察されるので,被災地での研究として研究倫理に十分に配慮した上で,協力関係を築いたり,共同研究を実施することにより,目的を達成するのに必要な規模のデータを集め,研究報告をしていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成24年12月から,乳歯の収集は実施していて,平成16年4月現在約1500本が収集されているが、ストロンチウム90,プルトニウム238,プルトニウム239+240は乳歯の蓄積が微量であるために,生年別に50本単位で測定しないと検出限界未満となる可能性が高い。地域別,生年別に一定本数収集されるまで本研究開始から1年以上かかり、さらに年度末で分析センターが多忙であったこと、また、分析にあたり3カ月以上の期間を有することなどから,予算執行が平成27年度で終了することなく次年度に繰り延べされた.
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は乳歯生年別50本単位で日本分析センターに測定依頼中である.
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