研究課題/領域番号 |
15K11437
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
加藤 一夫 愛知学院大学, 歯学部, 准教授 (60183266)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 口腔バイオフィルム / フッ化物停滞性 / S-PRGフィラー配合歯磨剤 / depth-specific analysis |
研究実績の概要 |
表面改質型酸反応性無機ガラス(S-PRG)フィラー配合歯磨剤から放出されるフッ化物が、他の無機イオン(Al、BおよびSr)と同時に口腔バイオフィルムに作用した場合のフッ化物停滞性に与える影響を、depth-specific analysisの手法で評価した。 被験者20名(18-34歳)の左右上顎臼歯部に、in situ バイオフィルム堆積装置を取り付け、装置内のエナメル質片上に口腔バイオフィルムを堆積させた。3日後、装置を取り外し、Al (344.9 ppm)、B (460.5 ppm)、Sr (931.1 ppm) およびF (202.0 ppm)を含む、S-PRGフィラー配合歯磨剤スラリーの濾過液に1分間浸漬した。直ちに口腔内に戻し、30分後に装置を回収した。バイオフィルム試料は凍結乾燥後、包埋し、表層、中層、内層の層別試料分画(厚さ300μm)に分離した。表面から順に厚さ2μm×2片と4μm×4片の切片に分け、所定の厚さになるまで繰り返した。F (195.0 ppm) を添加したS-PRGフィラー未配合歯磨剤の濾過液で処理したものを対照群とした。4μmの切片から抽出されたフッ化物と他の無機イオンは、それぞれイオン電極法とICP発光分光分析法で定量した。分析結果は、染色した2μmの切片を用いて推定したバイオマス量で補正した。 表層におけるAl、B、SrおよびFの平均取込比(S-PRG群/対照群)は、それぞれ3.48、2.34、3.64および3.64であった。両群とも、作用したフッ化物濃度はほぼ同じであったにも関わらず、S-PRGフィラー濾過液で処理したバイオフィルム表層のフッ化物濃度は、対照群よりも有意に高かった (t-test、p<0.001) 。 これらの結果から、S-PRGフィラー配合歯磨剤は口腔バイオフィルムのフッ化物停滞性を促進することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
口腔バイオフィルムをdepth-specific analysisの手法で評価するための層別採取法は、研究計画調書で示したように、これまでの研究方法を応用することができた。また、本研究に至るまえの検討で、ICP発光分光分析法を使った分析で、ストロンチウムが、バイオフィルムの内部まで浸透することが予想されていた。このような背景から、順調に経過したと考えられる。 一方、試験歯磨剤から抽出されるフッ化物以外の無機イオンのうち、ホウ酸とアルミニウムについても、そのときのストロンチウムの場合と同様に、試料から抽出後、蒸留水で希釈し、ICP発光分光分析法で定量してきた。しかし、分析装置の部品交換により、溶液の吸引量が変わったことから、希釈方法を蒸留水から1N過塩素酸に変更し、希釈液の違いによる検出値への影響を検討したところ、ストロンチウムの測定結果には影響がなかったものの、ホウ酸とアルミニウムの検出値に影響することが明らかになった。そのため、この違いが最終的な結果にも影響するかどうか確認するため、抽出作業や希釈作業を検討する必要が出てきた。 この検討に時間を要する場合には、今後の研究の進展に影響が出る可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
ホウ酸、アルミニウム、ストロンチウムおよびフッ化物を含むS-PRGフィラー配合歯磨剤の濾過液とフッ化物のみ添加したフィラー未配合の歯磨剤濾過液を作用させた場合のバイオフィルム内のフッ化物濃度分布の比較から、S-PRGフィラーによるフッ化物停滞性の促進が確認された。従来2価の陽イオンであるカルシウムやマグネシウムにはバイオフィルム内のフッ化物停滞性を促進することが知られており、S-PRGフィラー配合歯磨剤の作用が2価の陽イオンであるストロンチウムによるものかどうかを確認する。 また、その場合、カルシウムやマグネシウムなど2価の陽イオンは、バイオフィルム内のレンサ球菌とフッ化物の結合を促進し、フッ化物による細菌の乳酸産生能を抑制することが知られているので、その点についても検討する。 また、濾過液に含まれる各無機イオンの濃度からみて、特にホウ酸のバイオフィルム内への取り込みの低いことが示唆された。そこで、本来の歯磨剤の使用を仮定し、反復応用により、各エレメント(特にホウ素)の取込みが促進されるかどうかを検討する。
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