口腔内環境と歯の酸蝕症の成立に関する基礎的研究として,より口腔内環境に近づけたpHサイクリングの条件として脱灰・再石灰化溶液の種類、脱灰・再石灰化時間,フッ化物の濃度や添加時期などの各種条件がエナメル質の表面性状に与える影響を多角的に検討した.2015年には歯の酸蝕症が発症する条件を考慮した清涼飲料水の種類とその温度が与える影響について,2016年には脱灰・再石灰化の処理時間とサイクル時間およびフッ化物の有無によるエナメル質の表面性状の違いについて,2017年には脱灰・再石灰化のサイクルとフッ化物の存在環境として実際の口腔内の脱灰・再石灰化サイクルにおいてpHの低い脱灰時とpHが高くミネラルが存在する再石灰時の2種のフッ化物環境の影響について,2018年には高濃度フッ化物の応用方法と,フッ化物イオン濃度の影響について検討した.これらの基礎的研究により歯の酸蝕症の発症とその後の経過は口腔内の様々な環境によって変化し,ライフスタイルの改善やフッ化物を積極的に応用することで予防・改善できることが示唆された.2019年度には唾液やプラークの存在を考慮した再石灰化溶液と再石灰時間の要因がエナメル質の表面性状に与える影響について検討した.再石灰化溶液はpHは低いもののフッ化物が蓄積するプラーク下環境を再現した組成は唾液を再現した他2種と比較して有意に硬さが高かった.再石灰化時間は長いほど硬さが高かった.また,表面粗さは一般的な全唾液の組成と比較して歯質に近接した唾液を再現した組成の再石灰化溶液を使用した群が有意に高かった.したがって,カルシウムおよびリン酸イオンおよびフッ化物による再石灰化促進および脱灰抑制作用に加えプラーク下環境でも脱灰・再石灰化が動的に起こると考えられ,歯の酸蝕症の予防・改善に寄与できる基礎的研究としての成果が得られた.
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