研究課題/領域番号 |
15K11444
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野原 幹司 大阪大学, 歯学研究科, 准教授 (20346167)
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研究分担者 |
高井 英月子 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (30532642) [辞退]
深津 ひかり 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (00635386) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 嚥下障害 / 唾液誤嚥 / 嚥下内視鏡 / 誤嚥性肺炎 |
研究実績の概要 |
誤嚥性肺炎は感染症であり,その原因菌は口腔内の細菌と考えられている.しかしながら,肺炎の原因菌が口腔に存在しても,誤嚥されない限りは肺炎にはならない.そこで感染経路として考えられているのが,唾液の誤嚥である.したがって,食物の誤嚥だけでなく,唾液の誤嚥についても適切に評価する必要がある. 本研究では,唾液を色素で着色することにより,唾液誤嚥を内視鏡で観察・評価する方法を確立し,その誤嚥の様相と肺炎発症の関連について明らかにすることを目的とした. H27年度の研究の結果,色素は緑色の食用色素を用い,その必要量は約0.1grであること,内視鏡での観察のタイミングは唾液の自発嚥下が3回生じた後が唾液誤嚥の評価に適していることが明らかとなった. H28年度は36例の脳性麻痺の嚥下障害例で評価を行なった結果,唾液を着色していないときと比べて,着色した方がPAS scoreが高値を示し(非着色時4.2±1.8,着色時6.2±1.2),着色時の方が微小な誤嚥も評価できることが明らかとなった.今回の被験者では経過中に肺炎になった症例が5例(肺炎群)であり,非肺炎群と比べて肺炎群の方が唾液PAS scoreは大きな値を示したものの,有意な差は認められなかった. H29年度は32例の高齢者の嚥下障害例で評価を行った結果,脳性麻痺の症例と同様に唾液を着色していないときと比べて,着色した方がPAS scoreが高値を示し(非着色時4.8±1.1,着色時7.1±1.2),着色時の方が微小な誤嚥も評価できることが明らかとなった.今回の被検者では経過中に肺炎になった症例が5例であり,肺炎群と非肺炎群の有意差を検定するまでには至らなかった.今後,可能であれば被験者を増やし,学会や論文で発表していく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は高齢者を主体にデータを採取することが主目的であった.高齢者の症例は当初の予定よりは少なかったものの,32名の被験者が確保できた.しかしながら,協力施設の予期せぬ人事異動等が重なり,充分な症例を集めることができなかった.とくに協力施設は肺炎予防に尽力しているため肺炎を発症した症例が少なく,今後の期間でできる限り肺炎発症症例でのデータが取れるように協力施設を広げていく. 脳性麻痺症例においては,協力施設の歯科医師の退職にともないデータ採取の継続ができなくなった.現存のデータで解析の工夫(被験者の群分け等)をし,学会発表・論文作成につなげていく予定である. 延長期間中は人事異動等もないため,高齢者のデータをできるかぎり集めて統計をかけられるようにデータ数を増やしていけると考えている.研究結果は,日本老年歯科医学会や日本摂食嚥下リハビリテーション学会などで発表し,他大学・病院の研究者から意見交換をすることができた.今後は,引き続き他施設の研究者と意見を交換しつつ論文にまとめていく予定である.
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今後の研究の推進方策 |
今後の延長期間では,確立された唾液誤嚥評価の方法論を用いて,要介護高齢者を対象としたデータを採取していく予定である.本年度は要介護高齢者32例の唾液誤嚥の内視鏡データを採取し,その症例の肺炎既往の有無,胸部レントゲン検査,血液検査(CRP,白血球数,Alb),熱計表も集めることができた. 来年度は,できるかぎり被験者数を増やす予定であるが,要介護高齢者については大阪大学歯学部附属病院,介護老人保健施設つるまち,介護老人保健施設ラ・アケソニア,介護老人保健施設グリーンガーデンに加えて,特別養護老人ホーム旭が丘園とその関連施設にてもデータを採取する予定である. 目標としては50例のデータを採取したいと考えている.ただし,唾液誤嚥と肺炎との関連を検討するには,肺炎の既往がある症例が一定数必要となるため,場合によっては50例以上のデータを採取することになるが,約50例集まった時点でデータ解析を行い,学会発表か論文にて発表することを考えている. まずは単変量解析として,唾液誤嚥の程度と肺炎罹患の既往の関連を検討する予定としている.ただし,肺炎罹患の有無については,対象者の医療環境が十分ではなく胸部レントゲン検査や血液検査を行なえない可能性がある.その場合は,目的変数を肺炎ではなく呼吸器由来と考えられる発熱の既往に変更することも考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はH27年度に確立された唾液嚥下評価の方法論を用いて,要介護高齢者における唾液誤嚥と肺炎発症の関連のデータを採取することを目的としていた.要介護高齢者を対象としたデータは32例分採取できたものの,予測できなかった協力施設の人事異動があり,それ以上のデータを採取することができなかった.加えて,肺炎発症した症例を対象とする予定であったが,臨床にて肺炎予防に尽力されたこともあり,肺炎を発症した高齢者が思いのほか少なかった.そのため,データ量が少なく,記録メディアや解析,データ保存するための物品費がかからなかった.また,データを採取するための移動交通費やデータを解析するための人件費,謝金等がかからなかった.その結果として当初予定していた予算を下回ることとなった.
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