本研究は特に高度変性した資料からのDNA多型検査を目的とした研究であるが、29年度は法医事例において、微量混合変性資料からの低分子Y-SNP検出により日本人ではない容疑者に関連する可能性のある系統の存在を確認することができた。また、変性した微量DNAを含む試料の例として、多検体の毛幹部から得たDNAのmtDNA型検出を試み、その応用性を拡大してきた。これらの過程で、実際に南方の戦没者遺骨の検査への応用を試みてきた結果、南方資料は北方資料と比較して高分子DNAの比率が明瞭に低く、回収DNAも少ないことを実感してきた。そこで、南方資料に対しては、既報のDNA抽出法・多型検査法を資料に応じて変えることで、一部の資料でより良いと思われる結果を得た。研究期間全体としては、高度変性資料に対する低分子mtDNAのmultiplex検査法を確立したことで、高度変性資料に対する多型検出成功率が格段に上昇し、南方の戦没者遺骨鑑定への応用、高度変性法医試料の鑑定にも対応能が上昇した。作成してきたY-STRの系統推定コンピュータープログラムは、戦没者遺骨と血縁者のY-STR型検査の比較・判定に非常に役立ち、現在データ拡大中のX-STRのハプロタイプ検査は、近親度2度以上の戦没者遺骨の鑑定のみでなく、実際の法医事例でも役立ってきた。当初より進めてきた歯や骨からコンタミを除くDNA抽出法の開発については、長い間続けてきた北方の戦没者遺骨の処理については有用であったが、南方資料では変性度合いが高く、本法のみでは1本の歯からの繰り返し検査に対し十分満足できる量のDNAが回収できず、DNA抽出法の改良に踏み込んだ。これらの研究はいずれも、人体の中で最後に残される硬組織資料から、血縁関係の離れた対象者との比較により個人識別を行うためのDNA鑑定における最後の砦となる検査として重要な意味を持つ研究である。
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