循環器系疾患は受療率が最も高い疾患であり、世界的に大きな医療負担となっている。近年、高齢者の6割以上が罹患している歯周病と心血管疾患、脳血管疾患との間に強い相関が多くの横断的研究により示され、歯周病と循環器系疾患の関連が注目されるようになった。ところが、いまだにその機序を示すような介入研究は存在しない。循環器疾患や循環器イベントの重要なリスクファクターとして中心動脈硬化症が知られている。さらに、最近、我々は中心動脈のうち圧受容器の存在する頸動脈の動脈硬化度を評価し、動脈硬化度が高いものでは、血圧を一定に保つ圧反射感受性が低下していることを発見した。そこで、本研究は歯周病と循環器疾患との関連を示す機序として、(1)歯周病の進行が頸動脈を硬化させる、(2)頸動脈硬化を介して中枢性血圧反射感受性を低下させる、という仮説を検証した。 歯周病患者と健常者を対象に頸動脈硬化度を評価した。さらに、血圧変動と交感神経活動を同時に測定することで、血圧変動に対する交感神経反応の変化量を算出し、両者の関係から圧反射感受性を評価した。また、動脈硬化度と圧反射感受性を歯周病患者と健常者で比較することにより、歯周病の存在が中枢性循環調節機構にどのような影響をあたえるかを検証した。本研究の特徴としてマイクロニューログラムを利用して、ヒト交感神経活動を直接計測すること、中心動脈全体の硬化度をシステミックに評価するだけでなく、βスティッフネスを用いて圧受容動脈である頸動脈を含めた各部動脈の硬化度を局所的に評価し、どの部位に影響があるかを検証できること、が挙げられれる。 その結果、歯周病患者では末梢動脈よりも中心動脈の硬化度が高く、また、圧受容動脈である頸動脈でもその硬化度が高かった。そのため、健常者と比較して、歯周病患者の中心動脈圧は有意に高く、圧受容器反射感受性は低い傾向を示した。
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