本研究の目的は、高齢者の回想の効果を脳活動の定量評価、自律神経機能、心理尺度を用いて評価すること、回想想起刺激による効果の相違を明らかにすることです。地域に生活する高齢者22名の協力を得て、子供のころのことを2分間回想してもらい、2分間回想内容を説明した。回想の前と説明の後に2分間の安静時間を設けた。前頭葉の脳活動と自律神経機能は回想前の安静から回想後の安静までの間測定し、心理尺度は、脳活動と自律神経機能を測定の前後に評価してもらった。 前頭葉の脳活動は、近赤外分光法を用いて前頭葉の血流の酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンを測定し、自律神経機能は心拍数とR-R間隔を測定し周波数解析によってLF・HF・LF/HFを算出した。心理状態は、主観的健康観、気分(Visual analog scale)、自尊感情、POMSを用いて測定した。 高齢者が子供のころを思い出すことによって前頭葉の酸素化ヘモグロビン量が増加し、脱酸素化ヘモグロビン量が低下することが確認された。回想前に比較して回想、説明・回想後に酸素化ヘモグロビン量は有意に増加し、脱酸素化ヘモグロビン量は回想前に比較して有意に低下することが確認され、回想によって前頭葉の活動か活発になることが示された。自律神経機能は、回想前に比較して回想・説明時に心拍数が有意に増加し、HFが有意に低下したことから交感神経優位になることが明らかになった。心理状態は、不安や緊張、気分状態が改善することが明らかになり、回想によって気分が改善すると考えられた。また回想により自律神経機能が交感神経優位となることも明らかにした。回想刺激2群間の比較では、回想中の右前頭葉酸素化ヘモグロビン濃度について有意な差が認められた。 これらの成果について英文での論文投稿に向けて、データの分析や考察についてさらに検討しており、令和3年度に投稿する。
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