研究実績の概要 |
本研究では東日本大震災により、避難搬送された透析患者の長期予後を明らかにすることに取り組んだ。対象557人中、データがそろっていた554人(全員、震災時(2011年3月11日時点)に対象施設で透析治療をうけていた患者)の震災後の死亡率を、避難者と非避難者で比較した。避難の有無、年齢、過去入院歴や基礎疾患、性別を考慮し、避難に伴う死亡リスクを分析した。本研究では患者の生死を2017年3月3日まで追跡した(endpoint=2017/3/3あるいは死亡、転院日)。 分析対象の基礎情報は、女性192名、endpointにおける年齢平均は70.9歳、6回以上の入院歴を持つ患者が52人、研究期間中(2011年3月11日から2017 年3月3日)に120名が死亡していた。避難日データを有する患者のうち(n=193)、もっとも避難が行なわれたのは事故から一週間の3月17日(122名)であった。3月17日までに避難を行ったものは151名であった。研究期間中の非避難者における死者数は26名(死亡率:0.10 per 1,000 person days)で、避難者においては94名(死亡率:0.13 per 1,000 person days)であった。コックス多重回帰分析の結果、年齢及び入院回数が統計学的有意に死亡に関連していた一方、避難者と非避難者の間には調整済み死亡率に統計的に有意な差は見られなかった(ハザード比1.17、95%信頼区間0.77-1.74)。 避難者と非避難者の間に有意な差が見られなかったことは、日頃の診療から継続したメンバーがトリアージを行い適切な選択のもとに搬送が行われれば、さらには該当医療機関を中心とした避難手段、避難先の受け入れ調整のめどが整った後の避難であれば、長時間の避難による身体的負担を始め、避難に関連する健康リスクを回避できる可能性を示唆している。
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