本研究は、日本で非がん性慢性痛に対するオピオイド療法を受けている患者の生きてきた生活体験を明らかにした。対象者は ペインクリニックで治療を受けていた非がん性慢性痛患者34人であり、慢性痛を抱えてオピオイド治療を受けながら生きていく日常の生活体験や思いについて率直に語ってもらった。データは半構造化インタビューを用いて収集され、グラウンデッド ・ セオリー ・ アプローチで分析した。 結果、非がん性慢性痛に対してオピオイド治療を受けながら生きてきた体験として、8カテゴリが抽出された。患者は激痛発作を抱えた苦しみや痛みによる生活や心身への不調を含めた「消耗させる痛みを抱えた生活に対する憔悴」を体験していた。どの患者にも程度の違いはあるが、不条理な慢性疼痛の闘病軌跡があり、慢性痛によって破滅的思考に陥りやすく、「不条理な痛みによって抱えた心の闇」を抱えていた。患者は痛みの治癒への可能性をつなぎ、慢性痛障害による社会サービスの活用やセルフケアといった「状況打開を目指した試み」を行っていた。医療者への信頼と依存や躊躇を抱きながらも、薬に頼りたくないといった「医療に対するジレンマ」を抱えていた。特に、オピオイド治療による挫折と落胆、オピオイドがもたらすものへの恐れを感じながら、オピオイドが最後の砦であり、オピオイド治療に対する周囲の理解や奏功感を抱く「オピオイド治療による両価性な気持ち」を語った。社会生活で痛みの相互理解を阻む溝や麻薬処方にまつわる様々な障壁を体験し、「慢性痛と生きることへの社会の壁」を感じていた。しかし、痛みに囚われず無心に生きることや、自分や生活とのバランスを保ち、現在の状況を諦観する「慢性的な痛みと暮らしながら妥協していく」ことを述べていた。そして、痛みがあっても生きがいがある生活をし、周囲の支えに感謝し、可能な範囲で自分らしく「活きることへの再起」に向かっていた。
|