研究課題
2030年には高齢者の半数近くは独り暮らしになることが推測されている。高齢者を取り巻く環境の変化が著しい中、加齢変化と慢性疾患を併せ持ちながら生活する高齢者は環境の変化に適応できないことが更なる生活不安を生む可能性が考えられる。そこでIADLの側面から高齢者の日常生活に潜む不便さを明らかにすることにした。公共交通機関(電車・バス・駅)、スーパーやドラッグストア、公共機関(銀行・郵便局・市役所・病院)を利用する高齢者18名の行動観察からは【安全を意識した行動】【スムーズな行動のための早めの準備態勢】【慣れに左右される行動】【認知機能と感覚機能の低下に伴う非効率性】【身体能力と比例する行動】【他者の言動を意識した行動】【加齢を意識した工夫】【機器操作への不安感】などの特徴が抽出された。また、前年度に続きインタビューデータの分析により病院を受診する際の不便さは【居住地に総合病院がない不便さ】【インターネット予約や機械操作の困難性】【病院の案内係の説明や対応の不足】【加齢による書類手続きや移動の困難性】【病院までの移動手段の制約】【診察やリハビリまでの長い待ち時間】【処方箋薬局からの受け取りに関する困難性】に類型化された。インターネットの普及により病院の予約が可能となったが、【インターネット予約や機械操作の困難性】を抱く高齢者にとっては利用に至らず、効率よく受診できないことへの葛藤を生じさせていた。これらのことからはIT機器の活用が不便性と利便性の自覚に較差を生じさせていることや、高齢者の既知や習慣、身体能力や物事の容易さが高齢者のIADLを円滑に進められるか否かに影響していることが明らかとなった。便利さの追求によりIT機器には新たな機能が導入され続けているが、これらが高齢者の機能低下に対応していなければ機器使用をはじめとする環境変化への不安感や不便さは容易に解消されないと考える。
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