本研究の目的は、自然災害被災地の復興・再生に影響する社会的歴史的文化的要因と被災者の経験を明らかにして、被災者の回復・再生の観点からメンタルヘルス支援を開発することである。これまで、岩手県の津波被災地およびインドネシア共和国ジョグジャカルタの噴火被災地において、被災地の復興・再生に影響する社会文化的要因ならびに被災から回復に至る被災者の経験とその意味について調査してきた。 平成29年度は、復興期における地域メンタルヘルス支援を開発するために二つの調査を行った。調査1では、住民参加型の被災地の復興・再生支援の一環としてユニークな活動に取り組んでいる国内の組織及び被災者の全人的な回復・再生支援に取り組んでいる海外の組織において、支援の内容と方法について聞き取りと参加観察を行った。調査2では、アクションリサーチの手法に準じ、岩手県とインドネシアの被災地住民との間で、住民の考える地域メンタルヘルス及び支援の方策について話し合いとグループインタビューを重ね、その結果に基づき支援案を作成し、住民からフィードバックを得た。調査1と調査2の結果を過去2年間の結果と併せ、住民参加型の地域メンタルヘルス支援を検討し、被災地の地域メンタルヘルスに資する実用的な情報を小冊子にまとめた。 住民が捉えるメンタルヘルスとして、地域の復興、地域行事の復活・継承、住民間のつながりの回復・維持、防災知識の伝承、自然との共生の歴史(岩手県:自然の厳しさに代々耐え抜いてきた歴史;インドネシア:メラピ山が与えてくれる恵み)が抽出され、住民が定義するメンタルヘルスとは個人の事柄というより、地域の連帯や共同体の知恵の伝承であることが示唆された。これまでの研究から、住民参加型の被災地のメンタルヘルス支援を検討するには、地域の自然との共生に根差した生活文化とその中で育まれてきた共同体の知恵を基軸とする必要が示唆された。
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