研究実績の概要 |
本研究の目標は、在宅で生活している高齢者の生活上の危機とその管理の内容を明らかにし、今後の危機管理の支援のあり方を検討するものである。研究課題の1つは高齢者が「もしも、万が一」という主観的な危機の内容を相対的に、量的記述的に明らかにすることである。もう1点は、在宅の高齢者における、身体機能低下に伴うリスクや、災害等の外的危機による生活のダメージの回避などのために、高齢者が生活の中で行っている対処・工夫を明らかにすることである。 研究の意義と重要性:平成28年度は2地域(A町人口約167,00人、B市C地区人口約7,800人)における郵送の悉皆調査を実施した。平成27年度の予備調査と自治体からの意見を踏まえて、実態に即しかつ高齢者支援の現場に有用なデータを得るための調査票の精度を高めることができ、回収率はA町51.3%(2,566件)、B市59.1%(1,726件)の計4292件を分析した。平均年齢75.2±7.3歳である。 高齢者が危機と感じる項目で半数以上の多数だったのは「災害」「屋外での転倒・事故」「心身の衰え」「断水・停電等の生活の障害」「認知症」だった。いずれも単独世帯の人が他の世帯形態の人に比べ有意に危機と認識する割合が多かった。危機への対処は、健康管理、防犯、火災予防などにおいて70%以上の人が実施していた。単独世帯の人は、緊急の連絡先の明示と安否確認をしてもらう工夫、近隣との危機時の話し合いの実施割合が高かったが、家屋の管理、火災予防・災害の備えの割合が低かった。これらのことから単独世帯の高齢者が人的ネットワークを活用した危機管理を実施しているが、火災や災害のための物理的環境の整備が課題であることを明確にした。今後の分析により、危機と危機管理の類型化と対象者特性に沿った支援を明らかにする予定である。
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