本研究の目的は,Preferenceの変化を測定することが保健指導の効果指標として適用可能かどうかを検討することである。Preferenceとは,経済学,マーケティング,行動心理学の分野において”選好”として用いられる概念のことであり,本人の価値観から導き出される”好みの度合い”のことである。本研究では,健康教育や保健指導等の実施によって,本人のこれまでの価値観が変化し,Preferenceの変化に結びつくかどうかに着目している点が新規性になっている。つまり,短期間,長期間によらず健康教育や保健指導を受けた者のPreferenceが変化するということは,価値観の変化を伴っていることを示しており,長期的な効果につながる可能性も考えられるということである。 これまでの分析により,健康教育や保健指導によってPreferenceが変化することは明らかとなったものの,その効果は短期間なものに留まってしまうことが明らかとなった。また,指導内容のインパクトがPreferenceに大きく影響することが示唆された。 そのため,今年度は介入内容を研究者で固定せず自身の経験がPreferenceおよびその二次指標である支払い意思額にどう影響があるのかについて,産後ケア施設の利用状況別に比較・検討を行った。その結果,介入内容に依らず自身の産後ケア施設の利用経験が最も高い集団において有意にPreferenceが高いことが明らかとなった。また,支払い意思額については個人の世帯年収に大きく影響を受けており,利用経験の最も高い集団と最も低い集団とで有意な差はみられなかった。 以上のことより,保健指導の効果指標としてPreferenceは有効であるものの,長期的な効果の指標として用いるには個人の背景要因や指導内容そのもののインパクトに大きく影響を受けるため更なる検討が必要であることが明らかとなった。
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