移住者・難民のメンタルヘルス支援に携わった経験のある精神保健福祉専門家(医師、看護師、保健師、臨床心理士、社会福祉士、精神保健福祉士ら)にアンケート調査とインタビュー調査を行った。移住者・難民のメンタルヘルス支援に積極的に携わる人々の背景だが、アンケート調査からは①母語以外の外国語が堪能、②海外在留経験があることの2つの要素が、インタビュー調査からは①異文化に対する好奇心の強さ、②マイノリティの経験(海外在留のみならず生活保護家庭であったなど)、③使命感と役割意識の高さという3つの要素が見いだされた。また心理社会的距離についてのアンケート調査だが、精神保健福祉専門家は移住者・難民らと夕食を共にすること、友人となること、共に働くことには抵抗はないものの、隣人となること、家族の一員となることに対しては抵抗を示していた。彼ら曰く「自分たちは経験を通じて彼らを知っている。知っているからこそ、パーソナルスペースで一緒に過ごすことは難しいと感じている」と述べていた。つまり、移住者・難民のメンタルヘルスに携わる精神保健福祉専門家は、ケアの場としては彼らを受け入れ、生活スペースにおいては彼らを排除することが見えてきた。 この調査を通しての問いは、移住者・難民の支援に一定期間、積極的に関わっている者でさえ、本質的には多文化共生に対する意識の変容がない、ならば一般市民らは多文化共生に対してどのような意識を持っているかということである。国民の47%が移住者・難民であるカナダでは政府が移民政策を明確に示し、国民は「移住者・難民は国益であり、自分たちは彼らに寛容であるべきだ」いう共通意識を持っている。多文化共生社会のあり方を探るには、まず国民の多文化共生社会に対する意識を明確にすることが必須であることが見えてきた。
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