研究課題/領域番号 |
15K11913
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藤井 伸治 東北大学, 生命科学研究科, 准教授 (70272002)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 植物 / 重力感受 / アミロプラスト / 突然変異体 |
研究実績の概要 |
植物の重力感受細胞における初期の重力応答機構は、アミロプラストの沈降と DnaJ 様タンパク質であるARG1 (ALTERED RESPONSE TO GRAVITY1) から構成されていると考えられている。重力応答におけるアミロプラストの沈降の役割は、デンプン合成の欠損によりアミロプラストが正常に沈降しないpgm (phosphoglucomutase) 突然変異体を用いて検討されてきた。しかし、これらの突然変異体で欠損している遺伝子産物は重力刺激を生体内のシグナルに変換する機能を持たないと考えられるため、未同定の重力感受分子の存在が予想される。arg1 pgm二重突然変異体の根の重力屈性を、植物用低速遠心機の利用により過重力下で解析した。その結果、arg1 pgm二重突然変異体の根は、25G環境下でarg1突然変異体と同程度までに重力屈性を回復した。したがって、arg1 pgm二重突然変異体中で機能していると予想される重力感受分子に依存する重力応答性を25G環境下で検出できることが示された。そこで、EMS (ethyl methanesulfonate) 処理したarg1 pgm二重突然変異体のM2集団をスクリーニングし、arg1 pgm二重突然変異体よりも、さらに 重力屈性能を低下させるenhancer of arg1 pgm突然変異の単離を試みた。現在までに、4976 個体のM2の芽生えをスクリーニングし、204個体のM2個体を選抜し、採種した。それらのうち101系統のM3個体を解析し、25G環境下での重力屈性による根の屈曲角度が、arg1 pgm二重突然変異体の根の屈曲角度よりも小さい4系統を見出した。したがって、これら4 系統では、arg1 pgm二重突然変異体で残存している重力屈性能が、EMSで誘発した突然変異により低下していると予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究ではarg1 pgm二重突然変異体の重力屈性能をさらに低下させる突然変異の中で新規な重力屈性突然変異であるenhancer of arg1 pgm (enap) を見出すために、ラフマッピングを行う必要がある。arg1-3 pgm-1二重突然変異体の遺伝背景である Columbia (Col) との間でDNA多型マーカーの作出を可能にする塩基配列の差異の情報が充実しているLerのそれぞれのアリル突然変異であるrhg (root hypocotyl gravitropism) stf1 (starch free1) 二重突然変異体と、得られた突然変異体とを交配し、F2集団を得て、ラフマッピングの準備を行った。その準備を進める過程で、arg1-3 pgm-1二重突然変異体に比べて、rhg stf1二重突然変異体の重力屈性の欠損の程度がより顕著であることが判明した。ARG1遺伝子は10のイントロンを持つが、arg1-3はT-DNAが第9イントロンに挿入されたT-DNA挿入系統であり、完全にARG1の機能を欠損しているとは言い難い。rhg突然変異の塩基配列の変化は特定されていなかったので、rhg突然変異体でのARG1遺伝子の塩基配列を決定した。その結果、rhg突然変異は、410アミノ酸からなるARG1タンパク質の58番目のLeuの第一コドン (C) が欠損しているフレームシフト突然変異であった。したがって、rhg突然変異は完全にARG1タンパク質の機能を欠損している可能性があり、少なくとも、arg1-3突然変異に比べrhg突然変異ではARG1タンパク質の機能の欠損の程度が大きいと予想された。一方、pgm-1突然変異は、623アミノ酸からなるPGMタンパク質の191番目のTrpのコドンが停止コドンになるナンセンス突然変異、stf1突然変異は開始コドンを含む55塩基の欠損突然変異であり、両者ともに、PGMタンパク質の機能は完全に、あるいは大きく欠損していると期待される。したがって、今後、Colを遺伝的背景に持つ、ARG1遺伝子産物のより顕著に機能を欠損した突然変異体を用いて、研究を遂行する必要性が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、まず、Colを遺伝的背景に持つ完全に機能を欠損していると期待されるarg1突然変異体を用いて、arg1 pgm二重突然変異体を再構築する。通常、タンパク質をコードしているエキソンへのT-DNA挿入系統は、knock-out (完全機能欠損型) 突然変異体であると期待される。現在、11のエキソンからなるARG1遺伝子の第7エキソンへのT-DNA挿入系統 (arg1-11) を入手したので、今後、本arg1-11突然変異とpgm-1突然変異との二重突然変異体を作成し、現在迄に解析した二重突然変異体との重力屈性を比較し、今後の解析に用いる。 新規の重力屈性に影響を与える突然変異体の単離のために、arg1-3 pgm-1二重突然変異体の代わりにrhg stf1二重突然変異を用いる。まず、rhg stf1二重突然変異体の十分量の種子を採種した後、rhg stf1二重突然変異体の種子をEMS処理し、M2種子を採種する。そして、得られたM2集団をスクリーニングし、rhg stf1二重突然変異体の突然変異形質に干渉する新規突然変異体の単離を試みる。得られた突然変異体については、新たに作成したarg1-11 pgm-1二重突然変異体との間で交配し、マッピングの準備を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進展が遅れたため、次年度での実験補助の雇用を検討している。そのための財源を確保するために次年度使用額を残した。
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次年度使用額の使用計画 |
研究費の使用状況を考慮し、可能であれば、平成28年度の後半から、実験補助を雇用する。
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