研究課題
国際宇宙ステーション(ISS)内において2009年に行った植物の生活環を全うさせるSpace Seed実験において,シロイヌナズナの野生型植物体を軌道1 G区およびµG区で63日間生育させたところ,長角果形成が影響を受けることが示唆されている.筆者らはこの実験において,軌道上でRNAlater処理された野生型の花芽試料を解析することはできなかったが,Columbiaをバックグラウンドに持つlefty/tua6変異体の花芽は得られた.そこでこれを用いて,宇宙環境において長角果形成が影響を受けた原因の手掛かりを得るため,トランスクリプトーム解析を行い,花芽における遺伝子発現に宇宙環境および微小重力環境が与える影響について解析を行った.宇宙1 G区,µG区,および地上1 G区(富山)で33日間栽培し地上に帰還後,回収されたlefty/tua6変異体の植物体より,花芽を切り出し,RNA抽出を行った.マイクロアレイ解析はAgilent Arabidopsis 2 Oligo Microarray (44K; Agilent Technologies)を用いて行った.まずµG 下および 宇宙1 G下で形成された花芽におけるトランスクリプトームの比較を行った結果,µG 下では111遺伝子の発現が2倍以上増加しており,光応答の遺伝子群などが含まれていた.また104遺伝子の発現が1/2倍以下に減少しており,防御応答に関連する遺伝子群が比較的多く含まれていた.次に宇宙1 G下および地上1 G下で形成された花芽におけるトランスクリプトームの比較を行った.その結果,宇宙1 G下において,946遺伝子の発現が2倍以上増加しており栄養状態や飢餓応答に関する遺伝子群などが含まれていた.また1057遺伝子の発現が1/2倍以下に減少しており,高温・光および酸化ストレス応答に関する遺伝子群に加え,花粉形成に関わる遺伝子群が多く含まれていた.
2: おおむね順調に進展している
栄養成長に関しては,長期過重力植物栽培システムのための栽培容器の改良や環境整備を進めると同時に,長期過重力が根系に与える影響については,側根形成などをふくめて詳細を再検証中である.葉のクロロフィル蓄積については,予備的ではあるが,色相の変化の解析結果を得ており,現在クロロフィル抽出により検証中である.支持組織の発達に重力環境が与える影響の解剖学的解析およびX線CTによる非侵襲解析の準備ができた.生殖成長に生殖成長に関しては,微小重力環境の影響解析であるSpace Seed宇宙実験の解析を優先的に行い,現時点では概要に述べた結果を得られており,概ね順調に進展していると判断される.
ロックウール中の根系の解析については,試料によってはロックウールとの区別が困難なため想定よりも難航しており,何らかの打開策が必要となっている.栄養成長に関する長期過重力が根系に与える影響については,側根形成などをふくめて詳細を再検証をすすめる.支持組織の発達に重力環境が与える影響の解剖学的解析およびX線CTによる非侵襲解析の準備ができたので,その解析を進める.長期植物栽培システムについては,栽培容器の改良を進め,生殖成長までの解析を目指す.種子のプロテオミクスも進める.
新たに,長期過重力植物栽培システムのための環境整備において振動評価の必要性,過重力栽培装置における重力環境が栄養成長に与える影響について,その影響の普遍性を確かめる必要が生じた.
理由に述べた項目の実施を行う.具体的には,長期過重力植物栽培装置の振動評価とその対策に加え,振動過重力栽培装置における重力環境が栄養成長に与える影響シロイヌナズナ以外の植物での調査が必要で有り,次年度には新たな研究分担者の参加要請および研究協力者への謝金支出を計画している.
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (15件) (うち招待講演 1件)
Microscopy
巻: 64 ページ: i66
doi:10.1093/jmicro/dfv187
巻: 64 ページ: i132
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http://doi.org/10.5685/plmorphol.27.21