研究課題
本研究では,放射線によって誘導される線虫(C. elegans)の筋運動の停止や低下が数時間で回復する現象(筋運動変調)に着目し,筋運動の停止や低下からの速やかな回復に関する「ホメオスタシス(生体恒常性)維持機構」の一端を明らかにすることを目的とする.今年度は,当初計画のうち「3. 放射線に対するホメオスタシス維持機構を強化し得るか否かの検討」に関する研究を進めた.多くの動物において,放射線の繰り返し(分割)照射により放射線適応応答が生じることが確認されている.そこで,x Gyの放射線を複数回に分割して全身照射することで,ホメオスタシス維持機構を強化し得るか?を,成長率を指標として調べた.照射時の日齢と成長率との関係も併せて調べた.実験には野生型の線虫を使用し,①非照射,②成虫に成り立ての3日齢でCo-60ガンマ線をx Gy 全身照射,③4日齢でx Gy全身照射,④5日齢でx Gy全身照射,⑤3,4,5日齢で各x/3 Gy(計x Gy)全身照射の5つの条件の線虫の成長を経時解析した.その結果,x Gyを1回で全身照射した②③④の線虫の成長率は,いずれも照射後のどの時点でも非照射線虫に比べて低かった.すなわち,x Gyの全身照射が,成虫の日齢に関わらず,その成長を抑制することを見出した.また,x Gyを3日齢から毎日1回ずつ,3回に分けて照射した線虫(⑤)の8日齢での成長率は,5日齢でx Gyを1回照射した線虫(④)とは同程度であったが,3日齢で1回照射した線虫(②)と4日齢で1回照射した線虫(③)よりも高かった.このことから,照射時の発生段階にもよるものの,放射線の線量の総量が同一であれば,分割照射の方が線虫への負担が軽減される可能性があることが示唆された.今年度は,上記の研究に加え,平成27-28年度の研究成果をまとめて学術雑誌や国際会議等で発表した.
<紀要等>1. M. Suzuki, N. Murakami, S. Yanase, Y. Yokota, T. Funayama, QST Takasaki Annual Report 2016, p. 109, 2018.2. S. Yanase, M. Suzuki, T. Sakashita, QST Takasaki Annual Report 2016, p. 110, 2018.
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Journal of Radiation Research
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