研究課題/領域番号 |
15K11924
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
樺島 博志 東北大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (00329905)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 震災 / 法政策 / 公共政策 / 津波訴訟 / 原発賠償 |
研究実績の概要 |
本研究は,震災復興をめぐる法政策と公共政策を,法理学的観点から価値論的に評価することを目的とする。本研究独自の視座は,津波被害と原発被害にかかわる責任を,民事責任から国家行政責任にわたる連続的な“社会的責任”の観点から総合的に把握する点に存する。 平成27年度の研究実施計画は,民事・国賠訴訟と震災復興施策に関する情報・実地調査を遂行することであった。そのために,石巻日和幼稚園事件,七十七銀行女川支店事件,山元町常磐自動車学校事件,石巻市立大川小学校事件,山元町立東保育園事件,亘理町立授産施設事件などの訴訟事件につき各地裁・高裁の判決と評釈を収集し,新聞データベースなどで社会的背景に関する資料の調査を行った。具体的には,宮城県各地の津波被災地の実地視察を行ったほか,震災5周年を記に開催された津波被災者原告団による「フォーラム東日本大震災から学ぶべきもの」に参加し,裁判の進行状況や原告被害者・弁護士ら当事者による講演・討議を聴取した。 津波関連の民事損害賠償・国家賠償訴訟にかんする判例・理論研究の成果をまとめて,環境法政策学会に投稿し,2016年度学術大会分科会における成果発表に採用された。報告内容は,海岸堤防の安全性にかかる営造物責任,地方自治体による避難計画等の整備にかかる国家賠償責任,気象庁・マスメディアの情報提供にかかる法的責任,防災行政無線・広報車等による地方自治体の避難誘導にかかる国家賠償責任,被災地の事業所・学校等の施設管理者に課せられた平時の安全配慮責任および被災当時の避難誘導にかかる民事損害賠償責任に分析したうえで,下級審裁判例の分析を通して,それぞれの法的責任を明らかにするとともに,法的判断枠組の理論的問題点を解明し,将来的な防災・都市計画の公共政策において考慮すべき法的観点を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に示したとおり,本年度の研究計画である津波関連の法的・公共政策的課題の研究を遂行し,一定の研究成果をまとめて,学会での報告の機会を得ることができた。研究遂行の社会との関連性という観点からも,市民・弁護士らの開催による震災フォーラムに参加し,文献研究にとどまらずフィールド・ワークも研究に取り込むことができた。 さらに, 当初の研究実施計画を超えて,震災にかかわる法的問題の検討成果を,これまでの日本の現代型訴訟と比較し,成果公表を行うことができた。研究実施計画においては,この成果は,3年目の平成29年度に実施する予定であったが,研究協力者との協力関係が前倒しで構築でき,新潟県・新潟市の協力もあり,本年度,研究成果を発表する機会を得た。具体的には,2015年12月15日新潟市ほんぽーと中央図書館にて「シンポジウム新潟水俣病公式確認50週年を迎えて」を主催・開催し,口頭発表「新潟水俣病50周年に寄せて―法・公共的政策課題を中心に」をおこない,一般市民を含む多数の参加者と意見交換を行った。この成果は,当初の研究実施計画のとおり,3年目までに論文の形で成果報告することを予定し,研究を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施計画の第2年度である平成28年度は,現在なお,津波関連の各訴訟が係属中であるので,裁判の経過を追跡し,昨年度まとめた研究成果を逐次補うこととする。また,最新の研究成果を盛り込んで,6月に開催される環境法政策学会学術大会分科会にて成果報告をおこなう。さらに引き続き,市民・実務家の協力を得て,被災地の復興と将来の防災にかかわるフィールド・ワークをおこなう。 このほかまた,研究実施計画の第1年度にすでに成果発表に着手した現代型訴訟との位置づけにおいて,原発事故にかかわる法的・公共的政策課題の解明に着手する。現代型訴訟という上位の理論枠組のなかで得られた研究成果を年度内にまとめ,研究実施計画の最終第3年度のなかで成果発表できるよう,研究を遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金が生じた状況として,まず,震災5周年の2016年3月に予定していたシンポジウムについて,研究協力者の時間調整ができず,開催できなかった点をあげることができる。 また,現代型訴訟という上位の理論枠組での研究成果は,新潟県・新潟市の協力が得られたため,会議費の支出が不要となった。 もう一つの事情として,現地視察を実施するにあたり,視察対象の津波被災地は,公共交通機関が発達していないところがほとんどであり,東北大学では自家用車による出張は出来ず,公共交通機関の利用が難しい地域においては、レンタカーや公用車を利用することとなっており,パレート非効率が生じている。もっとも,研究成果自体は,学会発表に採用されたとおり,順調に遂行できているものと認識しているので,ひきつづきフィールド・ワークを行う予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の研究実施計画で研究会を予定していた震災の記念日である3月11日は年度末にかかっていたため,当事者の多くが他の行事を予定しているなどの事情で,単独研究では大きなシンポジウムを開催することが困難であった。今年度以降,5周年に拘泥せず,時間調整をおこない,フィールド・ワークの一環として,市民・実務家を交えた研究会を開催する予定である。 津波・震災被災地の現地視察については,教学本務と学部運営業務との時間調整を入念に行い,研究計画に計上していたとおり,公共交通機関による視察を行い,研究費の円滑な支出に務める予定である。
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