研究課題/領域番号 |
15K11931
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
杉村 乾 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 教授 (10353731)
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研究分担者 |
松浦 俊也 国立研究開発法人森林総合研究所, 森林管理研究領域 環境計画研究室, 主任研究員 (00575277)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 森林利用 / 観光レクリエーション / 特用林産物 / 福島県 / 放射能汚染 |
研究実績の概要 |
福島県全域にわたって収集した情報を地理的に俯瞰するとともに、南会津郡と阿武隈山系南部において、原子力発電所事故以前に記録された森林の文化サービスを事故後の記録と比較することによって、事故が及ぼしている影響を評価した。そのため、森林利用に関する新聞記事、観光統計、放射線量の測定値、地元での聞き取りなどをもとに情報収集を行った。並行して、前記の県内2地域を中心に登山、観光レクリエーション、渓流釣り、特用林産物の採取等の森林利用を現地での目視によって評価し、地域間の比較を行った。これらの情報を利用種別と地域別に震災前後で比較したところ、以下のような結果が得られた。登山は最も回復の程度が大きく、南会津では震災以前よりも高い頻度で利用が観察されたのに対し、観光統計では県央部がほぼ回復、阿武隈山系では半分以下のレベルに落ち込んでいるが、少しずつ回復傾向にあることが示されている。他の自然体験型レクリエーションについても回復の傾向が見られたが、観光統計ではその程度が中通りで50%強、浜通りでは20%と低いレベルであった。山菜・キノコなどの採取については、南会津と阿武隈の両地域ともに減少している。阿武隈では放射能汚染によって大幅に減少しているのに対し、南会津では高齢化による減少は見られるが、域外からの入り込みについてはかなりの回復が見られた。ただし、キノコの出荷制限は県内の大半の市町村に対してかけられている。狩猟については阿武隈山系のイノシシ、南会津のクマともに基準値を超える測定値が得られため、出荷ないし摂取制限の措置がとられている。このように、森林文化サービスの復興状況については、おおまかな順序として登山、渓流釣り、自然体験型レクリエーション、山菜採り、キノコ狩り、狩猟の順に回復してきていること、事故現場から遠い地域から回復傾向が強いことが複数の情報をもとにある程度明らかになったと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
情報収集が遅れていた渓流釣りに関してはウェブサイトから内水面漁業に関する多くの情報を入手し、地図情報として整理した。その他については前年度と同様の調査を引き続き行っている。現地での目視による情報収集は当初計画ほどの量が集まっていないが、その他の情報収集量と調査結果の解析が進んでいることで相殺されるほどの十分な進捗が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
観光レクリエーション関連の情報については解析に十分な量が得られている。それに比べて特用林産物に関する情報量が少ないので、県内各地の森林組合から情報収集を試みるか、川内村と只見町を除く地域でアンケート調査を行うなどの方策を練る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
森林総合研究所が行った研究では、原発事故が森林文化サービスに与えた影響のアンケート調査の集計・解析や聞き取り調査、さらに山林に入る人々の外部被ばく実態調査を行った。調査結果の解析と成果の創出に重点を置いたので、多くの成果が得られた一方で経費は予定したほどかからなかった。また、得られた成果に対しては海外からの要請も強く国際会議での発表(ドイツ)を準備しているため、次年度使用額が多く生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、原発事故後の森林文化サービス変化アンケート調査結果のとりまとめに必要となる追加的な聞き取り調査や、昨年度から継続中の山菜・きのこ採りにおける外部被ばく実態調査等のための出張旅費に用いる。また、関連地理情報の収集や各種データ整理の研究補助アルバイト雇用費や英文校閲費等にも活用する。さらに、本年9月にドイツで開催される国際会議(IUFRO)で本研究の成果の一部を発表するための出張経費にも用いる予定としている。
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