2017年度は半年間福島市に滞在して大量のフィールドトリップやインタビューを行ったため、2018年度は主にそれでできた資料の整理(出張記録、テープ起こし、翻訳など)に集中した。 今になって、研究目標の長泥区民は「故郷に帰れない」と諦めていて、環境省が提案した放射性廃棄物中間貯蔵地に頷いたのはその証明にもなる。この企画によってかなりの収入が発生する一方、集落への帰還はさらにおぼつかない。 長泥の変わりつつある事情を今年度に入って次第にまとめてきた。出版した論文としては、「当事者が語る――一人の強制避難者が経験した福島第一原発事故」が『震災復興の公共人類学』(関谷・高倉編)で2019年1月出版された。これは長泥住民の庄司正彦との聞き取り調査を元にして、二人の名前で発表した。当事者の声を世間に聞かせることはこのプロジェクトの大きな目標の一つである。 もう一つの論文、「突然の追放、突然の富:福島の原発貴族」は長泥区民の複雑な経験を分析しようとするものである。長泥区民は故郷を失ってしまって共同体が潰れてしまった一方、東京電力の賠償金が次第に増えた挙句、多くの世帯は1億円以上が入ったから、立派な新築家屋に暮らしている区民が多い。この損得を交えた経験を客観的に取り上げることも今回の研究の大きな目標である。この論文は今年度中、人文書院から出る論集(仮タイトル、「福島原発事故避難者論」)に載る予定である。 よその研究員と協力することも大事だと考える。上記の人文書院の論集は自分で編集者になって、8名の若手中心の研究員を集めて、強制避難者や自主避難者の異なる経験を事例研究を通して分析するのが目標である。このプロジェクトのメンバー4名と組んで、英文学術ジャーナルJapan Forumにも論集を今年度中出版する予定である(査読者付き・掲載決定)。
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