福島第一原発の事故で、大量の放射性物質が環境中に放出された。旧警戒区域にて野生化した家畜において安楽死処分が実施された。これまで我々の研究グループは、放射性物質に汚染された空気、水、エサという媒体を通じて、それら家畜のどの臓器にどれだけ放射性物質が沈着しているかを評価する研究を実施し、旧警戒区域内において被ばくした家畜(ウシ)からは、筋肉においてセシウム137で検出され、筋肉中のセシウム濃度と血液中のセシウム濃度に相関性が見られたことを明らかにした。しかし、放射性物質が、家畜の生殖器官と生殖細胞、特に、次世代の産子に与える影響についての研究はなされていない。これらのことから、被災した家畜において、ただ安楽死処分するのでなく、その命を福島畜産の復興、食の安全性評価や人類の知見のために活用し、後代にも渡りその影響を解析することは極めて重要な一つの課題である。 平成29年度では、旧警戒区域内で6ヶ月および2年間被ばくした雄ウシと次世代の8頭の産子においてDNA濃縮技術と次世代シーケンサーを用いて全ゲノムエクソン領域の網羅的な変異・挿入・欠損部位の頻度・位置とそれらの候補遺伝子から放射線被ばくに特異的な遺伝子を抽出した結果、および旧警戒区域内で2年間内外部被ばくした被災雄牛の精子を用いて、子牛を人工受精により産ませ、産まれた子牛の健康を評価するために血液の全代謝産物を網羅的に解析するメタボローム解析の結果を論文にまとめ、現在、投稿中である。
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